父の味、母の味、私の味

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「この味……」 このスープの味を、真里はよく知っている。これは、両親が寒い日によく作ってくれたオニオンスープの味だと、真里はすぐにわかった。 「懐かしい味がしましたか?ここは、魔法のかけられたレストラン。あなたの本当に食べたい味を提供するレストランです」 「えっ?」 魔法のレストランなど、小さな子どもが読む絵本に登場しそうな場所だ。だが、真里は目の前で笑う女性がおかしい人だとは思わなかった。それはきっと、あのスープの味が両親の作ったものそのものだったからかもしれない。 「さあ、席に座ってくださいな。あなたの食べたい料理をお出しします」 真里の鞄を女性は持ち、カウンター席へと案内する。真里は椅子に座り、ぐるりと辺りを見回す。花がたくさん飾られたおしゃれな店内には、席がいくつもある。だが今、この場にいるのは女性と真里だけだ。 「お一人で経営されてるんですか?」 真里がそう訊ねると、女性は目を細めて笑いながら言う。 「料理に関すること以外の質問は、お答えしかねます」 女性はキッチンに材料を並べていく。卵、鶏もも肉、ピーマン、玉ねぎ、そして温かいご飯とケチャップ。何を彼女が作ろうとしているのか、料理が作れない真里でもわかった。 「オムライス、ですか?」 「はい!正解です!」 女性はピーマンを粗みじん切り、玉ねぎはみじん切りにしていき、鶏肉も切っていく。その慣れた手つきを見ていると、真里は両親のことを思い出した。 『私、このピーマンを切るからパパは玉ねぎをお願いね!』 『任せろ!玉ねぎ、目にしみないようにレンジでチンしてから切るね!』
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