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「好きなことはあるんだね、キミ」
「……え?」
「いいんじゃない?好きなことを追いかけても。今は、それを一生懸命にやってみれば?」
楽は、腑に落ちたという顔をしていた。
「……進路希望は……」
しかし、一体何を書いたらいいのか、そんな顔で目を泳がせている。
楓が、明るく笑った。
「だから、好きなことをするために進めばいいんだよ」
楽は、少し考えてから、元気よく「はい」と返事をした。
お礼とお代を置いて、楽が店をあとにする。
扉の鈴が、リンと音をさせた。
「……未来ねぇ」
感情を持たない声で、黒樹は呟いた。
黒樹の前にコーヒーが入ったカップが置かれる。
「カフェオレにする?」
優しく笑って楓が言った。
一瞥して、黒樹はカップを手に取った。
「これでいい」
ここにいることが奇跡だとして、未来を望むことは、過ぎた願いとはならないのだろうか――――黒樹は、この世界の謂れを思って、小さくため息をついた。
この国には「闇」がある。手にするとなんでも願いを叶えるのだという、不思議な力が。
誰も、手にしたことはない。誰も、手にしてはならない、大きな力が。
「俺、夢があるんだよねー」
「興味ない」
楓の言葉に冷たく返すが、彼は構わず先を続けた。
「この先も、お前のそばにいる。俺の夢」
楓の笑顔が明るすぎて、眩しくて、黒樹は顔を見れないでいた。
「……あっそ」
願うなら、それが最後の望みとなりますように――――。
らしくないその言葉を、黒樹はコーヒーとともに飲み込んだ。
END
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