アンティークショップの人形

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アンティークショップの人形

二人は幼い頃から離れて暮らす息子に思いを馳せた! 夫婦とは言え違う地に住み、お互いの仕事は忙しく、たった一人の息子にも会うことは叶わなかった。 その日夫婦は半年ぶりの逢瀬だった。 息子は祖母に預けて以来、10年以上顔を合わせていない! その息子も中学からは祖母の元を離れ全寮制の男子校へ進学させた! そして今日晴れて大学の入学式! 息子と唯一繋がっていると感じる誕生日! 毎年必ず送る時計・・・・・母からの時計は母の時刻、父からの時計は息子の時刻に合わせてあった。 時計に込めた思いを息子は気づくだろうか! その贈り物に込めた、父と母の想い! それは・・・・・お互いに離れていても、同じ時を過ごしていると思いたかったから。 イタリアの小さな村を2人でドライブした、車を停めて村外れにあったアンティークの店に目を止めた、ウィドウに飾られたビスクドールの人形! その青年の人形に惹かれるように店内へ入ると、古いランプやガラスの花瓶が所狭しと置かれていた。 先ほど見かけた人形を手に取った、思った以上に重く手が触れた瞬間微かな衝撃を感じた! どんな思いを込めて作られたのか知る由もない人形・・・・・ただこの人形を買わなければと感じた。 幼い頃に別れた息子もきっと今頃は、こんな美しい青年になっているのだろう! あと少し・・・・・再び会える日まで、あと僅かの時間耐えれば、愛しい息子に逢える。 親とは名ばかりの自分たちに変わって、せめて息子を守って欲しいと美しい人形に祈った! 製作者の名前もわからない、何処で作られたかもわからない、青年の顔をした人形を母としての愛を込めて抱きしめた! 物言わぬ人形が母を見たような気がした。 それから数時間後、2人の車は崖下へ落ちていった! 高熱で焼かれた車も遺体も粉塵となり風に舞い、身元を確認するものはなくなっていた! 二人の死の知らせが息子の元へ届くことはなかった! 母の胸に抱かれた人形にその日新たな生命が芽生えた。 人形は母の想いを胸に遥か遠い国に住む息子の元へ向かった。
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