その日の朝

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その日の朝

止血剤を飲むと、 出血はすぐに止まった。 鉄剤で貧血症状も和らいで、 〈この分なら、 旭川の入学式にも行かれるかも…〉 などと無謀なことを考え始めていた。 (次男が旭川の高等技術専門学院に入学することになっていた。) 5日分の止血剤を飲み終わり、 4日目早くも生理が来た。 ずいぶん早いこと、と思ったが、 鉄剤も2週間分しか処方されなかったことを考え、 別段不思議にも思わなかった。 生理の2日目、 量は多めだがそれはいつものこと。 ただ、 レバーのような塊がいつもよりたくさん出るのが少し気になった。 3日目、 出血は普通の量に戻り、 三男の入学する学校の寮へ、 布団など生活用品を運び込む為、 家から車で一時間ほどかかる学校へ 三男と共に出かけた。 特に異常はなかった。 4日目、 三男と長女の入学式の日。 私は、朝から三男と共に高校へ行き、 午前は入学式、午後は入寮式に出席する予定だった。 前日、 旭川(次男の入学式)から帰ったばかりの旦那には、 午後から長女の中学の入学式に出てもらう …はずだった。 ところが… 朝四時ごろふと目が覚め、 トイレに行くと ナプキンが満杯状態。 タンポンもしているから大丈夫なはずなのにおかしいなと思いつつ、 まず布団を汚さなくてよかったと、 生理用品を取り替えてまた布団の中へ。 すると、 また5時半ごろ目が覚め、 予感がしてトイレへ行くと また、さっきと同じ状態。 そんなばかな。 4日目なのに。 まだ1時間半しかたっていないぞ。 入学式に行かれるのだろうか… ちょっと不安がよぎる。 8時に出発予定だったので、 6時半に起きた。 トイレに行くと案の定、 さっきと同じ。 まずいなこれは…、どうしよう。 前日旭川から帰ったばかりの夫は、 当然疲れていてまだ起きてこない。 朝ごはんの支度もしなければならない。 着替えもしないと… そうこうしていると、 三男が起きてきた。 ごはんを食べさせ、 「着替え、自分でしてね。」 その間にも 段々トイレに行く間隔が短くなってきた。 しかも、 タンポンを抜いたとたん ざぁっと出血するように…。 〈もうこれはだめだ。 入学式どころじゃない。 病院へ行かないと…〉 「お父さん、 ごめん、私病院へ行かないとだめだわ。 ケイ(三男)を高校へ連れて行って。」 起きてくるなりトイレへ連れて行かれ、 便器の中が真っ赤なのを確認させられた旦那は、 慌てて2階に上がり背広に着替えが始めた。 「なんだお前、 自分でネクタイも結べないのか。 しょうがないな。」 「ねえ、 僕学校へ置いていかれるの?」 「しょうがないだろ、 お父さんは午後から中学へ行かなきゃならないんだから。 よく先生に事情は話してやるから…」 突然の展開に三男はおろおろしていた。 「じゃ、 お母さんは自分でタクシーで病院行ってよ。」 「うん、わかった。ごめんね。 よろしく。」 慌しく二人を送り出し、 私は病院へ行く準備を始めた。 しかしまだその時は、 事の重大性を誰もわかっていなかった。
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