手術

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手術

旦那と並んで (私は車椅子に座ったまま) ドクターから 手術の内容、 起こりうるリスクなど説明を受けているとき、 ちょうど時計が13時を指そうとしていた。 貧血で頭がぼうっとして 話が半分も入っていかない。 それよりも中学の入学式が気になっていた。 〈長女はお父さんが来ていないことに気づいているのだろうか。 不安がっていないだろうか。 先生方も心配しているに違いない。〉 ドクターの話が終わって病室のベットに戻った私は、旦那に聞いた。 「中学には連絡した?」 「いや、 さっき電話したら話中だった。」 「お父さん、行かなくていいのかしら?」 「もはや式は始まっているし、 子どもはちゃんと学校へ行っているからもういいよ。」 「そうね、親の出る番はないんだし。 ただ、連絡だけはしておいて、 先生方も困っていると思うから。」 旦那は廊下に出て電話をしにいった。 「電話して事情は説明しておいた。 あいつは大丈夫だよ。心配するな。」 「うん。」 そう、いざとなれば、 四男ナムもいることだし、 何とかなるだろう。 2時半になり、 車椅子に乗せられて 私は手術室へと向かった。 病室は7階で、 談話室も手術室のある3階にはないので、 旦那は7階で待つことになる。 エレベーターまで見送ってくれた。 私は手を振ってエレベーターに乗った。 もし、最悪の事態になって、 筋腫をとった後出血が止まらなければ、 もうこれきりという可能性もゼロではなかった(手術である限り)のだが、 不安はまったくなかった。 手術室は2重の扉になっていて、 その中に入ると ある境界線からは 履いているサンダルも手術室用となる。 そこには、 担当の看護師さんと麻酔医の先生が待っていた。 丁寧にご挨拶してくださったあと、 髪の毛をすっかり覆うように頭にキャップをかぶるよう指示される。 手術台のあるところまで行くと、 中には何か素敵な音楽が流れていた。 「手術は初めてですか?」 などと、 リラックスするように話しかけてくれる。 手術台に上がると、 血栓予防のソックスをはかされ、 さらにふくらはぎのあたりをマッサージするマッサージ器を取り付ける。 私は以前避妊手術をしたことがあったが(全身麻酔)、 そのころは、 そんな血栓予防のためのいろいろな配慮はなかった。 そして、 白いシーツを全身にかけられ 「手術は下半身だけですが、 消毒の必要があるので、 下着は全部取らせていただきますね。」と脱がされる。 シーツの中は全裸です。 「これを吸って下さいね。」 とマスクを口のところに持ってこられ、 それが麻酔ガスだったのか、 点滴から麻酔薬を入れたのか、 もうその辺からまったく記憶がない。 以前全身麻酔をしたときは、 注射をしたり、 手足を縛られたり、 覚めるときも気分が悪くなったりと 結構しんどい思いをしたのに、 今回はじつに楽だった。 どのくらいたったのか、 眠っていた私には分からない。 気がつくと、 病室のベットの上に寝かされていた。 記憶があいまいなのだが、 旦那が側にいたように思う。 後から聞くと、 病室に戻るまで40分ぐらいだったらしいので、 私の麻酔が覚めるのを確認した後、 娘を迎えにいったのだと思う。 その後、時間はわからないのだが、 旦那が子供達を連れてきてくれた。 もう、夜だったのかもしれない。 三男ケイは、 もうその日から寮生活なので 来たのは四男と長女の二人。 子どもも私の顔を見て安心したのかもしれないが、 私も子供たちの顔が見られて安心した。 「明日もちゃんと学校行くんだぞ。 お父さんのお手伝いしてね。」 まだベットから起きられない私は 手を振って見送った。
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