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兄弟仲は悪くない。他国の王族と比べてみれば恐らく、随分といい方だと思う。フェルディナンドとは14つ歳が離れていて、自分を慕ってくれる可愛い弟だと思っている。
それでも、何が起こるかわからないのが世の常。
玉座をめぐり骨肉の争いが過去に幾度となくあった事もまた事実。
――気を引き締めよう。
そのお茶会の後すぐに、フェルディナンドの決意に触発された4男は、地位や身分を捨てて聖職者への道を歩みだした。
軍部でフェルディナンドが上官や先輩達からいびられている事は知っていた。殴られているところを見かけたことだってある。それでも約束通り、他人のフリをした。
弟の決意を、兄である自分が踏みにじってはいけない。
フェルディナンドの、あの熱い瞳とは裏側にある毒を消す事が出来るのは自分では無い。
「やっと、見つけたのか。良かったなフェル」
ずっと恐ろしい存在だと思っていた末弟に、今なら安心して自分の背中を預けられる。先程言っていたフェルディナンドの言葉は多分、嘘では無い。
笑った時の顔が、ずっと昔、まだフェルディナンドが幼かった頃に自分に向けてくれたものと同じになったから。
王太子はベンチからゆっくりと立ち上がると、妻の待つ会場へと戻って行った。
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