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「そうですけど……?」
言ってないのになんで分かったんだろ?
こんな高価そうな髪留めなんてまずアリシアには買えないし、買える人は限られてくるからかなぁ。と首を傾げているとハンナが「鈍いわねー」と呆れ顔でため息をついた。
「その髪留めのお花、ゼラニウムでしょう? おじ様の頭絡に刺繍してある花と一緒じゃない」
「え゛っ…………」
言われてみればそうだ。
毎日見ているのになんで気が付かなかったんだろう。
気付いてしまうと猛烈に恥ずかしくなって顔が熱くなってきた。
「アリシアの手綱を握るのは容易ではなさそうだね」
「あら、お父様。上手いこと言いますわね」
みんな私の事をよく馬に例えてくるけど流行りなんだろうか……。
くすくすと3人で笑い合っているが、もういたたまれない。
「そ、それではそろそろ私は軍部の方へ戻らなければなりませんので、お暇させて頂きます」
「うん。あんまり君を留め置いておくと弟の機嫌が悪くなるからね」
「あなた、あんまり女性を虐めるものではありませんよ」
「私もフェルの気持ちがちょっと分かってきてしまったよ。ついからかいたくなる」
「全くもう、いい歳して。アリシア、この人の事はいいからお戻りなさい」
王太子妃に助け舟を出されてようやく移動用に乗ってきたバームスに跨ると、アリシアは一つ、はあぁ、と重いため息を付いた。
もうこれ以上、勘違いしたくないのに。
いっその事、騙された振りでもしてみるか。
なんて考えてみても、そんな事をすればいよいよ自分が本気になってしまうのは目に見えている。
きっと、一時のいい夢だったで終わらせられない。
そんな夢なら見たくない。
「とんでもなく酷い人だね、お前のご主人様は」
バームスに背中の上から話し掛けると、耳をピクピクとこちらに傾けただけだった。
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