13. 馬を訪ねてどこまでも

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「そうです。本日もお世話になります」  何となく変装している理由は聞かない方が良さそうだと判断した父が、相好を崩して挨拶をしはじめた。 「フェルディナンド殿下もお久しぶりで御座います。殿下の活躍ぶりはこの王都の外れにまで届いておりますぞ」 「いえ、王宮での娘さんの活躍ぶりに比べればまだまだですよ」  しばらく男たちの話が続いているので、その間にクルメルの赤ちゃんを思いっきり撫でくりまわして堪能させてもらう。ミンカ二世は母親がアリシアに警戒していないせいなのか、怖がったりせず、なされるがままに触らせてくれる。  かわいい、かわいい、かわいいーーーっ!  かわいいの嵐が吹き荒れてどうにかなってしまいそうだ。  これまで牧場で産まれてきた馬を売りに出したくないなんて思ったことはないけれど、この子は絶対に売りたくない。 「それじゃあアリシア、案内してこい」  話がひと段落したようで、父親に声をかけられた。 「はーい。ヴァルテル中尉、こちらへどうぞ」  ヴァルテルを案内する間際、ボソッと父が「既婚者かー」と言う声が聞こえてきた。  まだ騎士との結婚を諦めて無かったんだ……。  ヴァルテルにピッタリそうな子の目星は付いている。  馬装をパパっと済ませて試し乗りをして貰うと、すぐに色の良い返事が返ってきた。 「すごいね。本当にしっくり来ると言うか、もう10年くらい前からこの子を知っているかのように感じるよ」 「ふふっ、この子はまだ6歳ですよ。勇敢だけどちょっと甘ったれな性格がヴァルテル中尉にピッタリかと思います」  ヴァルテルは甘やかし上手な人なので、きっと相性がいい。早速イチャコラやっている。  『ツコル(お砂糖)』と名付けられたこの馬はこのまま無事に視察の旅に連れていくことになり、心の中でホッと胸を撫で下ろした。  ツコルを連れて行ってもらわなきゃ、クルメルにまた2人乗りしなきゃならないもんね。
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