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桜がたくさん散っている。想い出はきれいなままの方がいい。桜吹雪に乗って、何もかも吹き飛ばされればいい。
「……夏休みにさ、オレこっち帰ってくるから」
「え?」
桜がザワザワと音を立てて、より強く花びらを散らした。胸の奥で、ほんのりと灯りがともるように、残像が揺らいでぼやけている。
「また連絡するから、撮影会しような」
少し照れたやわらかい表情が、風に乗せて花びらをかっさらった。
「……はい」
もう花粉症という嘘ではカバーできなくなるほどの涙が、次から次へと溢れてくる。拭っても拭っても拭いきれなくて、噛みしめたくちびるがわずかに震えた。
とりあえず私はいつまで花粉症のフリをしていればいいのかな。バレた時に二人で大笑いすればいいかな。鈍い門倉先輩が気付くまで黙っておこうと思う。
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