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手のひらに当たった指先が、私の熱を奪って離れていく。今すぐにでも、その手を捕まえてしまいたくなる。
「門倉先輩、ブロア持ってますか?」
「あるよ」
カメラバッグからブロアを取り出す門倉先輩。この後ろ姿を見るのは、今日で最後になるのかなと思うと、鼻の奥がツンと痛んだ。
「前使った時にゴミが付いちゃったんですかね」
何度もブロアをギュッと握りしめて、レンズに付いたゴミを吹き飛ばした。
「使った日にちゃんと手入れしとけよ。こうやって次使う時に困るだろ」
「はーい」と適当に返事をした。不真面目な部員でごめんなさい。私は優しい部長にいつも頼りきっていた。
背面モニターを見ながら後を追う。一年間、こうして彼の背中を追い続けていた。私の興味は満開の桜じゃないんだ。マクロレンズに交換した後ろ姿は、花に寄ってシャッターを押す。私は少し離れたところからズームにして背中を追い、桜に寄る門倉先輩を風景ごと捉える。
「浦崎はなんで桜が嫌いなんだ?」
急に振り向いて質問された。門倉先輩とモニターの中で目が合った。少し動揺してうっかりシャッターを押した。
やわらかな風が吹いて、花びらがひらひらと舞う。そのたわやかな立ち姿は、まるでチラチラと降る雪の中に立っているようだ。
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