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「自分の名前、嫌いなんです」
花びらはハラハラと落ち、地面を不規則に汚していく。
「『美桜』なんて名前、私には似合わないですよね。名前の説明する時に、いつも『美しい桜』って言わなくちゃいけないんすよ。どの顔が言ってるの? ってなりませんか? なんか名前だけ浮いてる感じなんですよね」
『美桜』という名前を聞くと、みんな口を揃えて「きれいな名前だね」と言ってくれる。そう、名前だけはきれい。かわいくない私には似合わない。
「だから桜も嫌いです。いつも比べられてる気がして。それに桜って、リア充って感じしませんか?」
「ちょっと意味分かんないけど」
美しく咲き誇った桜は、短期間で人を魅了する。
「みんなにチヤホヤされて充実してる感じしませんか?」
「……やっぱよく分からん」
「あはは、そっすか」
いろんな角度から桜を撮る門倉先輩は、私のことなんてただの後輩としか思っていない。桜を撮るように私のこともいっぱい見てほしかった。でも、私って顔も性格もかわいくないですよね。
「美桜って名前、いいじゃん。別に、誰も似合わないとか言わないでしょ」
今の私にそれ言う? 門倉先輩は優しすぎる。社交辞令なんて聞きたくないよ。決心が揺らぐ音が聞こえる。
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