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「きれいですね」
私は頭上の桜を見上げた。滲む視界に涙がごまかせなくなりそうだ。
「とうとう花粉症デビューですかね。目と鼻がやばいっす」
「うわ、マジか。花粉症辛いなぁ」
私は目がかゆいふりをした。鈍い人で本当に良かった。
「門倉先輩、ティッシュ持ってないっすか? 鼻がマジでやばいっす」
「あるある、ちょっと待て」
ガサゴソとカメラバッグの中を探す後ろ姿。ずっとこの背中を眺めていたい。あぁ、もうダメだ。払っても払っても、私の想いがまとわりつく。
「大丈夫か。ボロ泣きじゃん」
「急に花粉にやられました」
渡されたティッシュで鼻をかんだ。汚い音だけど、もう門倉先輩に聞かれても平気。今日で最後だから。本当に最後にしよう。
かみすぎた鼻が痛い。擦りすぎた目が痛い。好きすぎて心が痛い。でも、これだけは言わなくちゃ。
「門倉先輩、大学に行っても頑張ってください」
面食らったような顔をして、私を見た。私、そんな変なこと言ってないよね。困らせたくないから、笑顔で送ろうと決めていたんだ。
「あぁ、ありがとう。浦崎も部長頑張って。勉強もな」
もう門倉先輩に会えなくなる。大丈夫。覚悟はしていたから。
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