桜吹雪にまみれる

6/7
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「きれいですね」  私は頭上の桜を見上げた。滲む視界に涙がごまかせなくなりそうだ。 「とうとう花粉症デビューですかね。目と鼻がやばいっす」 「うわ、マジか。花粉症辛いなぁ」  私は目がかゆいふりをした。鈍い人で本当に良かった。 「門倉先輩、ティッシュ持ってないっすか? 鼻がマジでやばいっす」 「あるある、ちょっと待て」  ガサゴソとカメラバッグの中を探す後ろ姿。ずっとこの背中を眺めていたい。あぁ、もうダメだ。払っても払っても、私の想いがまとわりつく。 「大丈夫か。ボロ泣きじゃん」 「急に花粉にやられました」  渡されたティッシュで鼻をかんだ。汚い音だけど、もう門倉先輩に聞かれても平気。今日で最後だから。本当に最後にしよう。  かみすぎた鼻が痛い。擦りすぎた目が痛い。好きすぎて心が痛い。でも、これだけは言わなくちゃ。 「門倉先輩、大学に行っても頑張ってください」  面食らったような顔をして、私を見た。私、そんな変なこと言ってないよね。困らせたくないから、笑顔で送ろうと決めていたんだ。 「あぁ、ありがとう。浦崎も部長頑張って。勉強もな」  もう門倉先輩に会えなくなる。大丈夫。覚悟はしていたから。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!