549人が本棚に入れています
本棚に追加
啓祐は冷たい風を体に感じると、ゆっくり目を開く。
そこには広大な平原が広がっていた。青空から差す温かい日差し、大自然の匂い。それらのすべてが、まるで現実世界そのもの。ゲームというバーチャルな世界なんてことはすぐに忘れさせてしまう。まさに異世界。
「おいおい、マジかよ。すげーな……」
ふと、啓祐の真横から人の声が聞こえた。その声に驚いた啓祐は思わず振り返る。
見ると、周囲には自分と同様に多くのプレイヤーたちが魔法陣と共に出現し、待機していた。その数は50から100ぐらい。予想よりもずっと多い。
啓祐のようにキョロキョロする者も居れば、既に知り合い同士でペアを組んでいる者までいる。特に後者はナビを操作し、すぐにパーティを組み始めた。
そんな光景を見せられ、啓祐は早速焦りを覚えた。
最初の一チームしかクリアできないという条件からして、ソロで行動するよりもチームを組んだ方が圧倒的に有利に決まっている。
菊池は説明でも言っていた。パーティというものを組めば、キーアイテムの取得状況が共有され、しかもパーティ間でのダメージも通らなくなると。デメリットは特にない。
啓祐は、これからパーティを組もうとナビを操作している三人の男たちへ視線を向ける。年齢は自分と同じかやや上ぐらいだろう。
少し緊張するが、最初が肝心なのだ。啓祐は勇気を出して三人の元へ近づいていった。
「あの、すみません」
啓祐に声を掛けられた三人は同時に啓祐の方を見る。
「はい」
「も、もしよかったら一緒に組みませんか?」
啓祐に誘われた三人は「あー」と言葉を紡ぐ。相手とて、仲間は多いに越したことはないはず。
「ごめんなさい。俺ら、最初からこの三人で行動しようって決めててさ……。元々友達同士なんすよ」
「そうですか……」
「まぁ、また仲間が必要になったら誘うよ」
やんわりと断られた。
確かに知らない人といきなり行動を共にしようなんて言われて、すんなり受け入れられないというのもわかる。啓祐だって、自分が逆の立場だったら同じように考えるかもしれない。
啓祐は彼らを諦め、次に誰を誘おうか考えた。
次第に周囲では次々とパーティが出来上がってきており、自己紹介などでざわざわし、笑い声なんかも聞こえ始めている。
そんな中、啓祐は一人の背の低い女の子とすれ違った。
年齢は啓祐と同じぐらいだろう。茶髪のショートカットからはシャンプーの匂いを漂わせている。
彼女は緊張したような面持ちで、先ほど啓祐を断った三人組へ声を掛けに行った。
啓祐は、あえて彼女らを気にしていない素振りを見せながらも、密かに決めた。
(あの子も一人なら声をかけやすい。
お世辞にもサバイバル能力は高く無さそうだけど、今は誰でもいいから仲間が欲しい。あの子が断られたタイミングで誘ってみよう)
風の音であまり会話が聞こえない。女の子がどうなったのか確認しようと啓祐が振り返ると、そこには見たくもない光景が広がっていた。
女の子は、和気藹々と三人組の男とパーティを組んでいたのだ。
「小林ちゃん、下の名前で呼んでもいい?」
「あ、はい。私もその方が慣れてるので……」
打ち解けているというよりは、男たちが寄ってたかって女の子を囲い、必死に持ち上げている様子。一方で女の子はどこか安堵したような表情を見せ、早くも心を許しているようにも見えた。
それが余計に腹立たしかった。啓祐はその場から逃げるようにして、大股で歩き出す。
(ふざけんなよ! 俺は断ったくせに、女の子だったら仲間に入れるのかよ!)
ゲーム開始早々、啓祐の気分は最悪だった。
最初のコメントを投稿しよう!