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多くのプレイヤーたちと共にエシリアへ入ると、そこで初めてゲーム内で生活するNPCを見て呆気に取られる。町で買い物をする主婦、走り回る子供と犬、馬車で荷物を運ぶ商人。
全員が全員、まるで意思を持って生きている人間。表情、所作、雰囲気、そのどれを取っても本物の人間と遜色ない。
「すげーな、これ。本当にゲームの世界なのか?」
啓祐の後ろでは、スタート地点から列についてきた集団が続々と町に到着した。
啓祐はまるで外国に旅行にでも来たような気分だった。
そんな異国の雰囲気に浸っていると、最初に啓祐のパーティ入りを断ったあの男女の集団が到着した。
「やっと着いたなー。マジ腹減った。メシ行こうぜ、メシ」
「あの、お金はどうするんです? 私、お金なんて持ってないんですけど」
啓祐は、あの時自分の代わりにすんなり仲間になった女の子の声が聞こえてくると、目的地も決まらぬまま逃げるようにして早足で歩き出した。
(なんであいつら俺についてくるんだよ。思い出したくもねーのに)
啓祐はしばらく歩き、町の中心部へとやってきた。広場でベンチに腰掛け、ようやくここでこれからのプランを練り始める。
ナビを開き、所持金を確認すると、とりあえず一文無しではないことがわかった。
運営からの配慮なのだろう、所持金として5000PGが入っている。PGとはこの世界の貨幣単位。円もドルも使われていない。
物価の相場はまだわからないが、5000PGは決して潤沢であるとは言えないはず。おそらく、ギリギリ数日生活できる程度のもの。
(腹は減ってるけど、まずはゲームといえば武器だろうな。ギターを探すのは落ち着いてからだな)
と、浅いゲームの知識を元に、彼はここに来るまでの間に見た、武器屋らしき看板を掲げた店へ向かう。
武器屋では、古今東西様々な武器が揃っていた。
剣、盾、槍、弓、ロッド、鎧の類。実際に陳列された商品を見ると結構迷い、正直どれでもいいやと思ってしまった。どれも物騒な凶器なのだ。携帯しているだけである程度身の安全は保障してくれるはず。
啓祐はその中でも比較的安価な、ロングソードを1000PGで購入した。まだ資金に余裕はあるが、これから食事や宿泊の事も考えるとこれでもかなりの出費だと考えている。
(問題はどうやってこの金を増やすか。
ゲームなら、モンスターを狩って金を稼ぐのがセオリーのはず。でも、モンスターって実際に金を落とすのか? なんかそれって違和感あるんだけど)
啓祐が店を出ると、目の前にはナビを操作してワイワイ談笑しながら歩くプレイヤーたちの姿があった。
啓祐が一人で行動している間にも、先ほどまでソロだった者たちは次々と仲間を見つけているらしい。
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