タイラント

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プレイヤーとNPCの見分け方は、左手首に装備されたナビと、現代人らしい服装、それから会話の内容ぐらいなものだが、感覚的に、町のどこを歩いても必ずプレイヤーに遭遇する。 そもそもこの町はあまり大きくはなく、スタート地点のプレイヤーや、近くでスポーンしたと思われる集団が一斉に合流し、既に過密状態にあると感じる。 そうなると、あまりうかうかしてはいられない。 スタート地点で見た看板によれば、道なりに進めば王都・エラドというところへ到達できるようだし、とりあえずの目的地をそこに定めている者も多いだろう。 とはいえ、ゲーム初日ということを考慮し、一旦この町で様子を見ようとする慎重な者もいるはずだ。 啓祐もその一人だ。まずはできるだけこの世界について知っておかないと、町の外でどんな目に遭うのかわからない。菊池の説明によれば、動物の他に、プレイヤーを襲うモンスターやボスなんかもいるとのこと。 それが自分たちにとってどれほどの脅威なのかはまだ未知数だ。 そして、プレイヤーはこの世界で何をしても自由だと言われた。その行為が善だろうが悪だろうが構わないと。今はまだいいかもしれないが、いずれは現実世界の法律や秩序によって理性を保っていた部分の保証がなくなるかもしれない。 啓祐は、性善説には否定的である。 そう考えれば、真っ先に仲間を作ったプレイヤーたちの判断は正しい。ゲームクリアの効率よりも、自衛としての恩恵が最も大きい。 「うーん……」 啓祐はマップ機能で表示された、エシリアの宿屋を改めて確認する。 今のところ発見して表示できている宿屋は二軒しかない。それもあまり大きいようには見えない。 このプレイヤーが過密状態の町では、下手をしたら寝床が無くなってしまうかもしれない。 啓祐は駆ける。 (しまったな。俺が最初にやるべきだったのは、武器の調達とか町の探検じゃあなかった。安全に寝泊りする場所の確保だ。 初日から野宿なんて、絶対イヤだ) 宿屋の扉を開けた啓祐は、少し焦りを見せた。それと同時に、不愉快な因果すら感じた。 フロントでは既に数名のプレイヤーが列を作って並んでいる。やはり他のプレイヤーたちも考えることは同じだったようだ。 しかも、よりによって啓祐の前に並んでいる集団が、またしてもあの男三名、女一名のグループだった。 小さな町で宿屋も少ない。同じ場所に集中してしまうのは無理もないが、何故こうも一番会いたくないパーティと出くわしてしまうのか。 しかし躊躇している余裕はない。また次のグループがやってくると、啓祐のすぐ後ろに並んだ。 それから数分で、前の四人が手続きを始めた。 啓祐は心を殺し、宿の装飾品などへ視線を向けるが、嫌でも前方から賑やかな声が聞こえて来る。 「マジ? 後一部屋しかないの?」 その言葉に、啓祐やその後ろに並んでいた者たちは反応した。 もう一部屋しかないのならここにいても仕方がない。啓祐の後ろに並んでいた集団は早々に結論を出し、宿から出ていった。 前方の集団は大声で会話を続ける。 「まぁ、別に相部屋でもいっか。節約になるし」 「そうだな。せっかくだし、みんなで酒でも飲んで語り尽くそうぜ」 まるで旅行気分。 啓祐も宿から出ようと決めると、集団の中の唯一の女の子が戸惑っているのが視界に入った。 「あの、どうしても後一部屋しかないんですか?」 「そう言ってんじゃん」 「私、相部屋はちょっと……」 「は? なんで? 別にいいじゃん。仲間なんだし」 「でも……」 女の子からしてみれば、見知らぬ男三人と相部屋なんて御免だろう。しかし男たちはそんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、強引に誘う。 「これから一緒に行動するのに、こんなところで輪を乱したらこの先やっていけないよ?」 「…………」 男三人の中に、女の子の気持ちを理解しようとする者はいなかった。とはいえ、後一部屋しかないのだからごねても仕方がないのも確か。 啓祐は、自分には関係のないことだと言い聞かせ、宿を出た。
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