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――ドンッと、大きく建物が揺れた。
啓祐はその振動により、数センチ身体が浮いたような感覚さえ覚えた。「落ちる夢」を見ていた啓祐は心臓がバクバク鳴っていた。
そうして飛び起きた啓祐は、まずここがゲーム世界であるということを真っ先に思い出し、そして今の揺れがただごとではないと瞬時に理解した。
窓の外を見ると、思わず声が漏れた。
「え、えぇ……」
町の中心地からは黒煙が上がっていた。道には人々がどこかへ走って逃げている様子。
ナビに表示された時刻は22時。数時間眠っている間に、町は大火事に見舞われていたようだ。
啓祐はより鮮明に外の様子を伺おうと窓に手をかける。
――と、その時だった。
一度突風が吹くと、部屋の窓が割れてしまった。それはまさに衝撃波と言ってもいいだろう。啓祐のいる木造の宿も、ミシミシと悲鳴を上げているようだ。
このおんぼろ宿では持たない。
啓祐は直感的にそう感じ、部屋から飛び出した。無論、荷物はすべてナビの収納システムを使っているため、手ぶらで十分だ。昼間に買った物騒な剣もナビの中にある。
既に町は炎に包まれ、夜に破滅の明かりを灯している。そして人々の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
想像を遥かに超える惨状に、彼は、町の中心地から離れた宿に泊まっていて運が良かったとさえ思った。
しかしそんなことよりも、啓祐はあるものを見て、恐怖の感情に襲われた。
それはまるでこの世の終わりを感じさせる光景。
最初はそびえ立つ塔か何かかと思った。だが、この町にそんなものは存在しない。
「化け物……」
それは、全長10メートルを超えるであろう石の巨人。
ゴーレムと呼ばれるモンスターである。両手に、その体長に見合った大きさの大斧を持ち、町のあらゆるものを薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしている。まさに悪魔の所業、生ける災害。
これが、この世界のモンスターなのだ。
啓祐は戦慄した。
ゲームの用意したモンスターであるというのは理解できたし、自分たちプレイヤーはあれと戦わなければならない運命にある。
だが、あんなものにどうやって立ち向かえばいいのかわからない。菊池は簡単にさらっと説明していたが、これは想像を遥かに超える命懸けのハードコアなゲーム。
とはいえ、メタ的に考えれば、プレイヤーならモンスターを狩れる設計になっているはず。ましてや最序盤の町だ。プレイヤー数も100名はいるはず。全員で力を合わせれば、討伐することができるはずだ。
(やるしかない……!)
いや、やれるはずだと、啓祐は意を決した。町の中心部では今もプレイヤーたちが戦っているはずだ。自分もそれに加勢するべきだと、この時はそう思った。
ここで、視界の先の方でゴーレムが大きく動いたのを捉えた。
大斧で建物を破壊すると、その瓦礫の塊がこちらへ飛んで来た。それはまるで砲弾。
啓祐はその危険性をいち早く察知するも、体は反応すらしなかった。
そんな飛ばされた岩石が、つい先ほどまで啓祐のいた宿屋に直撃すると、宿屋は崩壊し、そこから飛んできた瓦礫やガラス片が啓祐に浴びせられる。
勇気で奮い立たせたはずの己を、恐怖の感情がいとも容易くへし折る。
ガタガタ震える手を抑えるべく、両手を重ねようとしたところで、啓祐は左腕に装着されたナビに触れた。
おもむろに立体画面が開く。彼が偶然使ってしまったのは、モンスター等と遭遇した際に使える「偵察」機能だ。
そこには、信じたくもない事実が表示されていた。
【タイラント・ゴーレム】(ボス)
ランク:S
最序盤で出会うには、あまりにも絶望的な相手であった。
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