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呆然と立ち尽くす啓祐に、町の中心部から逃げて来たプレイヤーの男がぶつかる。
「君、プレイヤーだろ? 早く逃げた方がいいよ! マジで死ぬぞ!」
既に他のプレイヤーたちも戦うことを放棄している。しかしそれが賢明。
遠目から見た感じ、タイラント・ゴーレムの動きはあまり素早くはない。このまま夜の平原を当てもなく走り続ければ、さすがに逃げ切れるだろう。
啓祐も人の流れに従おうとしたその時、彼の近くで、息を切らしながら歩く、別のプレイヤーの会話が聞こえて来た。
「本当に大丈夫なのか? あの子……」
「知るかよ! どこに行ったかもわかんねぇし、こっちだって命懸けなんだ! いちいち構ってらんねーよ!」
「でもパーティ欄を見た感じ、まだ生きてるし……。もしかしたらあの中に……」
「知らねーって! こういう時に逃げる判断ができなきゃ、どっちみちこの先無理だ!」
「…………」
「それから、パーティは解除しろ! 死んだら後味悪くなるだろ」
まただ。こんな時でも、また昼間のパーティと遭遇してしまった。
しかしこの場にはあの女の子の姿はない。
啓祐は会話から状況を察すると、思わず男たちへ向かっていた。
「おい……ッ!」
言いながら、啓祐は思った。
何故こんなに、見ず知らずのあの女の子に固執しているのか。何故、他人事だと思って無視できないのか。
啓祐は言葉を飲み込み、舌打ち混じりに彼らを一瞥するとそのまま町の方へと走っていた。男たちはそんな啓祐のことに全く気付いてすらいなかった。
逃げ惑う人々に対して、逆走する啓祐は異端だった。何名かが啓祐に注意を促すも、啓祐の耳には入ってきていなかった。
町は昼間と打って変わって崩れてしまっているが、何とか大通りの面影はある。どこにあの女の子がいるかはわからないが、啓祐は最初に訪れた宿屋を目指して走った。
が、ここでタイラント・ゴーレムが大斧を振る。
途端に発生する突風、衝撃波。
タイラント・ゴーレムまでの距離はまだ100m以上もあるというのに、啓祐の身体はいとも容易く吹き飛ばされ、レンガの壁に体を打ち付けた。
見ると、自分の周囲には瓦礫やゴミが散乱している。
そして、道には負傷した人や犬が倒れ、救助を待っている。
「だ、誰か、助けて……!」
啓祐は、地面を這って逃げようとする老婆を見た。相手はNPCであると頭の中ではわかっているものの、心が痛むのを感じた。
ゴーレムが大斧を引きながら数歩下がったのを見て、啓祐は即座にその場から離れた。
まるでゴルフのスイングのように地面をえぐると、そこに夥しい量の瓦礫が降り注いだ。
何とか逃げられた啓祐は振り返る。先ほどまでいた地点は瓦礫で埋め尽くされ、先ほどの老婆も、犬も全員その中で死んだ。
啓祐は両手が酷く震えていることに気づいた。
「こんなの……酷すぎる……!」
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