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啓祐と女の子が走り出してすぐ、何となく違和感を感じて振り返った啓祐は目を疑った。そして、思い通りにならないもどかしさを感じた。
女の子はその場に立ち止まっていたのだ。
「何やってんだよッ!」
「……君、良い人だよね。私を逃がすために嘘をついたんでしょ?」
仲間を探すために留まっていた自分を逃がそうと、啓祐が嘘をついたと考えたのだ。彼女は、啓祐が自分やその仲間の顔を知っているはずがないと決めつけている。先ほどの啓祐の発言だって嘘くさい。
しかしそれはとんだ見当違いであり、二人の気持ちがすれ違った瞬間でもある。
「違う! 本当に君の仲間は……!」
「あっちの方にまだ誰かいるの。
ごめんね、すごく恐いけど、せっかく出来た仲間を見捨てたくないの!」
彼女はそう言い残し、啓祐とは反対方向へ走って行ってしまった。
「やめろ! 死ぬ――」
啓祐は彼女を追いかけるが、その瞬間、近くに巨大な瓦礫が飛んできた。その衝撃により、啓祐は吹き飛ばされてしまい、顔を切った。
やがて啓祐が立ち上がると、女の子は離れたところで瓦礫に足を潰され、倒れていた。
「くそッ! なんでこんなことに……!」
ゴーレムは大斧を振り上げながら、女の子に向かって大股で歩き出した。
もう見捨てるべきだ。絶対に助からない。そう思いながらも、啓祐は女の子に向かって走っていた。
ゲームの最序盤において、プレイヤーにできることは限られている。このゴーレムへの対抗手段を持っている者などいない。
これは明らかに運営による設計ミスか、あるいは意図的な負けイベントだ。
啓祐は倒れる女の子の前に立つ。
女の子はもはや諦め、涙を流していた。瓦礫に潰された右足からは夥しい量の血が流れている。どっちみちもう逃げ切れない。
「逃げて! 私はもうダメだから……ッ!」
啓祐はそんな悲痛な彼女の叫びを無視し、右手を翳した。
ゲーム開始直後のレベル1の者に出来ることなど何もない。
否、それは一般的なプレイヤーの話だ。
啓祐は右手に、一枚の魔法カードを持っていた。
「"発動"!」
唱えたのと同時にカードは消滅した。そして、何かが起きる前にゴーレムは大斧を振り下ろした。
――まるで町を丸ごと消し飛ばすような、そんな衝撃が発生した。それは、大きな閃光と共に夜の闇を貫いた。
女の子は見ていた。
夜空の彼方からやってくる一筋の光を。それは、全長数十メートルはある、光を纏った一本の巨大な槍。
それに気づいた次の瞬間には、大槍は既に地上に達していた。
大槍に貫かれたタイラント・ゴーレムは一瞬で粉々に砕け散り、その衝撃波で啓祐と女の子は途方もなく吹き飛ばされた。
啓祐は、現実世界から持ち込んだ3枚のカードのうちの一つを発動していたのだった。
【神の杖】魔法カード
ランク:SSS
真っ白な光に飲み込まれ、まるで地平線の彼方まで吹き飛ばされるような感覚。走馬灯のようにすべてがスローに感じる中、女の子は、啓祐の手に触れられた気がした。
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