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「バンドを人間に例えると、ドラムは心臓。ベースは骨だ。それからボーカルは手足だな」
大型アンプやドラムセットが配置された練習スタジオ。
一人の青年がギターを膝に置きながら、椅子に座って音楽について語っていた。
彼の名前は伊藤啓祐。今年で18歳になる高校三年生の男子生徒。彼は今、秋にある文化祭に備えてバンドメンバーとスタジオへ練習に来ていた。
そんな啓祐と話をしているのは、ベース担当の中村。彼は啓祐の独自の例え話を聞き、ごく自然な質問を返してみた。
「じゃあさ、ギターは?」
「ギターは髪型だ。いや……服装かな」
「服装って。ベースとドラムの例えはわかるんだけど、ギターだけしょぼくなってないか?
人間に例えるなら、普通は顔とかだろ?」
「確かに顔も考えたけど、ちょっと違うんだよな。顔っていうほど大事じゃあないというか。
結局さ、ギターなんてカッコつけるための道具なんだ。
でも、ロックならそれが最も大事だ。だから髪型と服装なんだよ」
「いやー、まぁ言いたいことはわからないでもないけどさ」
啓祐は幼い頃から、ハードロック好きな父親の影響を受けて育った。カーステレオは絶対に洋楽ロックしか流れず、幼い頃、啓祐が最初に歌えるようになったのは童謡ではなく、EaglesのHotel Californiaだ。
そんな啓祐が実際にギターを始めたのは中学生の頃と、案外遅い。
中村に「女子にモテたいから文化祭でバンドをやろうぜ」と誘われたことがきっかけ。
反抗期であった啓祐は、父親の趣味のギターに自分が手を出すことに気恥ずかしさがあったものの、初心者にとっての壁である機材などの調達は全て父親から譲り受けることができた。
幼い頃から聴いていた名曲による英才教育のおかげもあり、彼のギターテクニックはめきめきと頭角を現していった。
以来、中村とはずっと活動を続けており、バンドは次第にヘヴィさを増していった。
――今日もバンドの練習が終わったのは夜の10時を過ぎていた。
中村と同じ電車に乗った啓祐は、ギターのケースを抱え、足元にエフェクターボードを置く。
啓祐は今手掛けているオリジナル曲のことを考え、ボーッと電車内の広告を見つめた。
こんなリフを弾きたいと考えても、いざ曲にしようとすると何かに似てしまうし、面白みに欠けて単調になりがち。それだけならまだいいが、笑えるほどダサいメロディになることも屡々。
「なぁ啓祐、知ってるか?」
不意に中村は啓祐へ訊ねる。啓祐にとっては大事な考え事だったため、遅れてゆっくり振り向く。
「何?」
「今ネットでバズッてる……いや、炎上してるゲームがあってさー」
「あー……ゲームね」
中村は誰もが認める大のゲーマーで、自宅にはゲーム専用の高性能PCやモニター、テーブルや椅子まで用意されている。キーボードやマウスがキラキラと光っているのを、啓祐は見たことがある。
ベースが無ければ、彼は一日の大半をゲームをして過ごしていただろうと言い切れる。
一方で啓祐は、ゲームなど幼い頃に少し触ったぐらいで、とっくに彼の娯楽は音楽だけとなっている。昨今のゲーム事情に関しても中村から聞く話の範囲しかわからない。
中村は饒舌に続ける。
「パラレルアイランドっていう新規IPなんだけど、オンライン専用ゲームでさ、今めちゃくちゃ話題になってるんだよな。悪い意味で」
「悪い意味?」
中村はいつも新しいゲームが出ると興奮してその内容を語るが、ネガティブな情報で興奮しているのは珍しい。
「steeeelにもストアページが出来てるから、PC版も出ると思うんだけど、価格設定がふざけてんだよ」
steeeelとは、PCゲームを販売するオンラインプラットフォームのことだ。PCゲーマーでsteeeelのアカウントを持っていないものはいないとされているほど。
一方でコンシューマー機でも、各プラットフォームでダウンロード販売は始まっている。とはいえ、日本ではまだディスクを購入する文化は根強い。
「へぇ、いくらするんだよ。そのゲーム」
最近のゲームの販売価格は、ゲームの開発費の高騰などから、通常のAAAトリプルエータイトルなら8000円から10000円ぐらいの価格設定だろう。
「通常版で100万円。プレミア版ってのが300万。やっべぇだろ?」
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