Now Is The Time

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「死ぬって、そんなの……!」 状況は受け入れられずにいるものの、死という言葉で、啓祐は今自分がとんでもないことに巻き込まれているという実感が沸いてきた。 「アドラステア大陸には、人や魔物など様々な種族が暮らしています。機械やITなどの現代技術はありませんが、代わりに魔法が発展しています」 「いや、そんなことより……」 「とはいえ、プレイヤーにだけ、ある一つのデバイスが与えられます。 これはゲーム世界での自身のステータスを管理するための機器。プレイヤーとゲーム世界を繋ぐインターフェース、です」 菊池は啓祐を無視しながら、カウンターの裏から一つの腕時計型のウェアラブル端末を取り出した。 「口で説明するより、実際に体験してもらう方がわかりやすいでしょう。どうぞナビを装着してください」 まだ納得していない啓祐だが、淡々と進める菊池に従ってその端末を左手首に装着した。 「ナビはあらゆる衝撃に耐え、防水防塵仕様です。絶対に壊れません。では、画面をタッチしてください」 啓祐は言われるがまま、ナビの画面に触れる。 するとナビから光が放たれ、そこから空間に立体画面が出現した。それは3Dホログラムの技術を使ったメニュー画面。SF映画やアニメでしか見たことの無い技術。 「す、すげぇ……」 「すべての項目の説明は省きますが、いくつか重要なところだけお伝えします」 菊池の説明によると、各プレイヤーやこの世界のNPC、モンスターには「HP」、「レベル」、「属性」といったステータスの概念がある。 「HP」が最も注意すべき値で、ダメージを受けるなどすると値が減算されていき、0になれば死亡となる。復活はない。 仮にいくら健康状態だとしても、HPが0になれば死亡扱いとなってしまうため、HP管理だけは最も気を付けなければならない生命線だ。 ただし、高所からの落下であったり、肉体的に即死が免れないケースでは、HPに関係なく死亡するケースもあるとのこと。 また、HPだったり実際の怪我なんかは、という機能により、一定時間である程度回復するとのことだ。この度合いはレベルによって異なる。 「レベル」というのは、この世界における自身の強さを示した値となっている。値が大きいほど、受けるダメージが軽減されたり、肉体が強靭になったり、自身の攻撃力が相対的に上がる。 このレベルの上げ方は、基本的にモンスターを倒したり、クエストをこなしたりすることで勝手に上昇するとのことだ。 生き残るためには、レベル上げは必須だ。 「属性」とは、この世界で9つに分類される魔法属性の区分。最初にランダムに割り当てられるのだが、これによって覚えやすい技の傾向などがわかる程度のもので、命に直接関わるような重要な項目ではない。 更に菊池は続ける。 「ステータスについては以上ですが、他にナビの項目にはアイテムがあるかと思います。まずはタップしてみましょうか」 啓祐は言われるがままにアイテム欄をタッチし、メニューを切り替えていく。 ゲーム世界には、武器や消費アイテムなど様々な効果を持つアイテムが存在する。 これらはナビのメニューのをタップすることで、データ化して保管することができるようになる。そのため、いちいちアイテムを持ち歩く必要はない。 また衣服の類はをタップすることで、自動的に装着することができ、いちいち着替える手間も省ける。 基本的にこのようにしてアイテムを出し入れし、武器等を用いて戦うことができるのだが、一度使用したらこの世界から消滅してしまうというものもある。 その他にも、消費アイテムの一種としてというカテゴリーも存在する。誰でも簡単に魔法を使えるようにした、この世界の便利アイテムとのことだが、この時点では啓祐はあまりピンと来ていなかった。 菊池は啓祐のポケットを指差す。 「伊藤啓祐さん、あなたは現実世界から既にある魔法カードアイテムを持ってきています」 「え?」 啓祐はすぐにはピンと来なかったが、あの「パラレルアイランド」と書かれたディスクを発見した時のことを思い出す。ディスクに同梱されていたのは、数枚のトレーディングカード……。 ポケットに手を突っ込んだ啓祐は、そこから3枚のカードすべてを取り出した。 「そうです、それです。3枚も持って来てしまいましたか。 この世界には、という特殊な効果を発揮する技があります。基本的には唱えるだけで発動となるのですが、必殺技は発動するのに体力を消耗します。 魔法も、体力や集中力を使って発動するのですが、時にはその代償としてHPを支払ったりすることがあります。 まぁ、今はどちらも似たような概念だと思ってもらって大丈夫です」 「魔法……っていうと、ゲームなら普通、MPとかを消費するんじゃないのか? わからないけど」 「この世界にMPという概念はありません。 魔法は便利で、この世界にもよく浸透している概念ですが、その人の属性や適性によって使用できるのはごくごく一部です。 それを、誰でも使えるようにした便利なアイテムが魔法カードです。唱えるだけで、誰でも炎を操ったり、目的地へ瞬間移動することなんかができます」 魔法カードというのが非常に便利なものであるということはわかった。 しかし啓祐は、この概念を理解すればするほど、わからなくなってきた。 「なんでこんなもの持ってんだよ……親父が……」 菊池はそれに無言で首を傾げるのみ。 彼女は何かを知っているはずだ。だが、決してそれを口にすることはないだろう。 「さて、次に重要な項目の説明ですが……」 「待ってくれ」 と、啓祐はここで菊池の話を遮る。 「少しずつ……菊池さんの言うことも信じられるようになってきた。 でも、俺はパラレルアイランドに参加するなんて言ってない。俺は早く帰ってギターを弾きたいんだ」 啓祐は菊池の目を真っすぐ見つめた。 この非現実を受け入れたとしても、自分の中でどうしても耐え切れないのは、ギターが弾けなくなるかもしれないということ。 そんな啓祐の心からの訴えに、菊池はあっさりと答えた。 「あ、いえ。参加しますよ。ここまで来て引き返すなんてさすがに無理ですよ」
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