Now Is The Time

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もうこの菊池という女性に何を言っても無駄だと、啓祐は完璧に理解した。 啓祐はナビのアイテム収納機能を使い、先ほどまで持っていた3枚のカードを消す。実体のある物体が消え、代わりにアイテム欄に名前が入る。 まさにゲームと現実の融合。 「……わかったよ。早く帰りたいし、説明を続けてくれ」 1秒でも早く帰るには、1秒でも早くキーアイテムを集める必要がある。管理者である菊池がそうするしかないというのであれば、もはやそれに従うしかない。 啓祐はもう、開き直ることにした。 それから啓祐は菊池からいくつかの重要事項の説明を聞いた。 基本的にパラレルアイランドの世界では、何をしようがプレイヤーの自由。その行為が善だろうが悪だろうが関係ない。 まさに異世界転生をシステム化したような世界。 そんなゲーム世界に転生するプレイヤーの総数は、およそ5万人。 彼らは啓祐同様にこの世界へやってきて、この後アドラステア大陸のどこかへランダムにスポーンするらしい。 そんな菊池からの説明で、特に重要なものがだ。 プレイヤーには先ほども触れられた魔法、必殺技と言った項目以外にもスキルという概念がある。 スキルは、一度習得すればずっと効果を発揮し続ける特殊能力のこと。 例えば、寒さに強くなるスキルを入手すれば、極寒の中でも全裸で過ごすことができるようになったりする。 基本的にスキルは誰でも習得可能だが、この中でも特別なスキルが存在する。それが。 プレミアスキルは、他者との被りが一切無い一意(ユニーク)なスキルのこと。発揮される能力も、通常のスキルと比べて更に特異であるという。 菊池はこのプレミアスキルを、このゲームの要となると断言した。 そしてその入手方法は限定的で、現在明かせるのは一つだけとのこと。 菊池は言う。 「パラレルアイランドのリリース記念として、プレミアスキルの配布イベントが決定しています。このイベントに参加し、条件を満たしたプレイヤー全員にプレミアスキルが配布されます」 「配布……」 その入手方法の一つが、イベント。そして最初のイベントは配布だ。 「詳細はまた追って発表しますが、配布時期は一か月後となります。 イベントの参加方法は、SSSランクアイテムの、"プレミアのチケット"を入手し、配布のタイミングでそれを所持していることです。 そしてその肝心なプレミアのチケットの入手方法ですが、パラレルアイランドのプレミアエディションをプレイすることです」 プレミアエディションと言えば、中村の情報によれば300万円もする馬鹿げたエディションだ。しかし言い換えれば、プレミアスキルにはそれだけの価値があるとも言える。 「……高いエディションを持ってるやつが有利になるのか。それってなんか不公平だろ」 例えば、競技系のオンラインゲームにおいて、ペイ・トゥ・ウィンという考え方がある。 課金したユーザーだけが強力なアイテムを入手し、無課金ユーザーが太刀打ちできなくなるという問題だ。 競技である以上、プレイヤー間は公平でなければならない。つまりペイ・トゥ・ウィンは基本的にプレイヤーに嫌われる。 今回の場合、課金と言うよりは、最初に手にした高額なエディションを持つ者が圧倒的に有利になるということ。 しかもこれはただの競技系オンラインゲームではない。命懸けのデスゲームなのだ。決してあってはならない不公平だ。 「もし気に入らないのであれば、プレミアのチケットを誰かに譲渡するか、破棄でもすればいいですよ。イベントの参加は任意ですから」 「いや、だから……」 「え、気づいていないんですか? 伊藤啓祐さんはです。プレミアエディションですよ」 「えっ……」 「正直、一番不公平なのは伊藤啓祐さんですよ。 あなたはプレミアエディションで、しかも最上級の魔法カードをこの時点で3枚も所持している。 ハッキリ言って、例外中の例外。なんでこんなことになってるのか、文句を言いたいのはこっちですよ」 「いや、でもこれは……」 自分のゲームではない。そう言い訳したかった。 だが、菊池にはそれも含めてすべてお見通しのようだ。それでいて、あえて目を瞑ってくれている。 「しかし私たちはそんな例外も受け入れ、伊藤啓祐さんの参加を歓迎しています。精一杯、ゲームクリアを目指してください」 啓祐はアイテム欄から「プレミアのチケット」を選択してみた。 するといつの間にか啓祐の手には一枚のチケットが握られていた。これがナビからの取り出し。 啓祐はチケットに書かれた文字を読み上げる。 「……」 菊池は頷く。 「それが獲得予定のプレミアスキルの名前です。能力はまだ不明ですが、配布時にその名前のスキルが手に入ります。 そのプレミアスキルは、きっとあなたにとって一番大切なものになるでしょうね」
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