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「あらぁ! かわいいお客さまだらぁ」
土産屋の軒先に吊るされたピンクの浮き輪にネコよろしくとびかかる雪を見て、奥から絵に描いたみたいな恰幅のいいおばちゃんが現れた。
色褪せたアロハなエプロンは寒々しいけどおばちゃんの笑顔はそこだけ夏がきたみたいだ。
「うぁぁぁぁぁあ♪」
「あ、あ、…ません、あの、」
いくら小柄とはいえ一メートルはあるガキがぶら下がって、浮き輪の紐が切れそうになっている。ヤバいヤバいわ。
「チビちゃん、浮き輪買うら?」
「あいぃ!」
「けどまだ水は冷たいじゃんね、桜ははやいけどねぇ」
おばちゃんが顎でさすロータリーには、二月なのに桜が咲いている。伊豆の桜はいかれてる。
「や、波乗り? す」
「あらぁ、おにいちゃんもプロだら」
「…や、はじめて…、す…」
オレのあたまもイカれてる。
神奈川ではまだ雪の降る二月に波乗りなんて…
なんで波乗り?
それは、
「波乗りならいいら」
奥からまたべつの声がとんでくる。
しゃがれたオヤジの声に奥を覗きこんで、
「っ、」
あ、ヤベっ、こいつ、
「桜も咲いたじゃんね」
お巡りだわ。
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