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ーーー耀くん家でコーヒー飲みたい。
昼休みに、碧から届いたメッセージ。
ーー了解。
と返信してから、ふと思う。
…珍しいな。わざわざ送って来るなんて。
元々、今日あたり碧を家に連れて帰ろうとは思っていた。
ここ数日バタバタと忙しくて、碧と二人の時間が取れていなかったから。
碧も、何か話したいことがあるのかもしれない。
こういう時、同じ学校なら良かったのに、と、つい思ってしまう。
ただ、行事に力を入れ過ぎる嫌いのあるうちの高校の校風と、碧の性格が合わないことも重々承知している。
コーヒーに合うようなもの、今家にあったっけな?
碧の好きな甘い菓子類。
甘いものが好きだから、あんな甘い声が出るのかもしれないな、なんて馬鹿なことを考えた。
「耀ちゃん?なにスマホ見て笑ってんの?」
机の向かい側に座っている、碧の姉の陽菜が怪訝な顔で俺を見た。
「碧からでしょ?また何か可愛いこと言ってきたの?」
斜め横に座っている桜が、くすくす笑いながら訊いてくる。
「まあそんなとこ。…今日、碧連れて帰るから」
殊更、何でもないことのように二人に応えた。
「おっけー」
陽菜も何でもないように返事をして、桜はうん、うんと頷いた。
…俺たちが何をしてるかぐらい、分かってるだろうに。
そう、思わなくもないけれど。
午後の授業はいつもより長く感じた。気を抜くと碧のことばかり考えてしまうから、唇を噛んで教科書を睨みつけた。
どうにか1日を終えて教室を出る時に「これから学校を出るよ」と碧にメッセージを送った。少しすると碧から「ぼくもかえる」と返信がきた。
ちょっと慌ててるんだな。文面がひらがなだ。
可愛いやつ
いつものように陽菜と桜と3人で電車に乗って、見慣れた車窓を眺めながら帰った。家の最寄駅の近くで反対方向の電車とすれ違った。
碧、乗ってたかな。
碧の高校の方が、うちより少し近い。
電車が少しずつスピードを落としてホームに滑り込んだ。向かいのホームの、階段に向かう人の列はもう途切れている。
乗ってたとしても、もう階段降りたな。
逸る気持ちを抑えながら、普段通りに2人の後をついて電車を降りた。
「あ、ほら碧いるよ、耀ちゃん」
階段を先に降りている陽菜が少し振り返りながら言う。
見ると、改札の手前で碧が待っていた。敬也と依人、絵梨香も一緒にいる。
いつもは改札を出て向こう側で待ってるのに。
俺に気付いた碧がこっちに歩いてくる。
「おかえり、碧」
陽菜がいつも通り碧に声をかけた。碧は陽菜に小さく「ただいま」と言って、その前を通り過ぎ、やや速足で真っ直ぐ俺の所に歩いて来た。
「…耀くん耀くん。早く帰ろ?」
俺の袖を掴んで上目遣いで碧が言う。
めちゃくちゃ可愛い…けど
なん…だ?
どくんと胸が跳ねた。
「…ああ、帰ろうか」
俺が返事をしたら、珍しく碧が先に改札を通った。そして俺を振り返る。
頬が、目元が、少し赤く染まっててやけに色っぽい。
やばい。早く連れて帰ろう。
碧を隠すように肩を抱いて、皆に「じゃあな」と手を振った。
俺の腰に腕を回した碧が、普段よりもっとぴったりとくっついてくる。
「碧、チョコとか買ってく?コーヒーに合うような」
一応訊くと、
「ううん…いらない」
急いた様子で歩きながら碧が首を振った。
そして腰に回した手で、俺のブレザーをぎゅっと握り直した。
いつも通りなようで少し違う碧の仕草に胸がざわつく。
「…分かった。早く、帰ろうか」
碧の肩をしっかりと抱いて家路を急いだ。
マンションのエントランスを抜けて、エレベーターホールに向かう。上の階で止まっているエレベーターのボタンを連打した。
やっと来たエレベーターに急いで乗り込んで、恋人繋ぎでぎゅっと手を握り合った。
碧の体温がいつもより高い。
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