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ポインセチアのクリスタルビジュー
見あげると、濃い青色の空が広がっていた。十二月の空の色だ。
細い足首を、なめらかな絹糸がさらさらと流れていく。天の川の水底では、きらめくスパンコール、とろけるようなパール、ちかちか光るビーズたちがころころと転がり、足の裏をくすぐってきた。こんなにも、たくさんのきらめきが落ちているのに、ポインセチアが探し求めているものはこの一年、いっこうに見つからない。
「クリスタル・ビジュー。こんなに探しても見つからないなんて」
十二歳ほどの見た目の少年が、ミルク色の川をはだしで歩いている。オーバーサイズの赤いパーカーに、白いスキニーパンツ。黒の編み上げブーツは、川原に脱ぎすてられている。サンタ・ポインセチアは、腰まである赤毛をゆらしながら、しくしくと泣いた。
「あれがないと、ヤドリギ先生はプレゼントを作ることができないのに。もうクリスマスまで、二日しかない」
天の川のみで生まれる、虹色に輝くクリスタル・ビジュー。それは天の川から、サンタクロースへの奇跡の贈り物だった。
「やはり、あの人に取られてしまったんだ」
「ポインセチア。泣いているのかい」
ポインセチアよりも、ひときわ背が高い男の人が、河原をじゃりじゃりと歩いてくる。サンタ・ヤドリギ先生だ。赤いワイシャツに、黒のスラックス。澄みきった緑青の瞳を細め、やさしくほほえんでいる。
「クリスマス前だというのに、目がはれてしまうよ」
「ぼくは、クリスタル・ビジューをなんとしてでも、見つけたいんです」
「ポインセチア。ビジューはないけれど、きみのような素晴らしいサンタがいる。子どもたちは許してくれるさ。本当にほしいプレゼントじゃあなくてもね」
ヤドリギ先生は、この世のすべての子どもたちへのプレゼントを用意する仕事をしている。その子がほしいプレゼントにぴったりの箱を用意し、クリスタル・ビジューを入れる。それが子どもたちに届けられると、クリスタル・ビジューは願いのちからに反応し、ほしいプレゼントにすがたを変える。
これが、クリスマスの奇跡の正体。サンタクロースにかかせない、魔法のたねだ。
「ヤドリギ先生は、子どもたちのためにずっとずっとプレゼントを用意してきてくださった。なのに、あの人が」
ポインセチアは、胸の前でこぶしをにぎりしめた。
「ヒイラギさまが、クリスタル・ビジューを取りつくしたんだ」
サンタ・ヒイラギは、何百年も前から生き続けている、サンタクロースの長老さま。
しわしわの顔には、目が隠れるほどに長い白髪がたれている。いまだに、すべてのサンタたちを仕切っている、クリスマスの長だ。
だがポインセチアは、納得いかない。ヒイラギさまなんかよりも、ヤドリギ先生のほうがずっと、えらいと思うから。子どもたちのために、心をこめてプレゼントを用意しているすがたを見ているから。
一年かけて、子どもたちの人数だけクリスタル・ビジューを見つけて、箱につめ、包装紙でつつむ。とても大変な作業だ。ポインセチアも、それをずっと手伝っている。
クリスタル・ビジューを見つけることは、とてもむずかしい。スパンコールやパール、ビーズが沈む天の川。それらよりも小さなクリスタル・ビジューを見つけるためには、よほど目がよくないといけない。
そしてヤドリギ先生は、クリスタル・ビジューを見つける天才だ。そんなヤドリギ先生を、ポインセチアは心から尊敬していた。
ヒイラギさまは、大好きなヤドリギ先生のじゃまをしている。
だからポインセチアは、腹がたって仕方がなかった。
屋敷に帰ってからも、ポインセチアはベッドの上でもんもんと考えごとをしていた。
天の川からあがった、あとのこと。ポインセチアはヤドリギ先生に、あることをたずねていた。
「ヤドリギ先生。クリスタル・ビジューなしでクリスマスプレゼントを用意し続けるなんて、むりです。一年では、とてもたりません」
「それでも、ぼくは子どもたちの喜ぶ顔が見たいから、がんばってプレゼントを用意しつづけたいよ」
子どもたちの「サンタさん、ありがとう」。サンタクロースは、この言葉が何よりも大好きだ。それは、ヤドリギ先生も同じだった。
「先生がこんなに大変な思いをしているのに。なぜ、ヒイラギさまはクリスタル・ビジューを横どりするのでしょうか」
サンタ・ヒイラギは、すべてのサンタクロースたちのシンボルのような存在だ。世の中にあるクリスマス絵本のサンタクロースのイメージは、ヒイラギさまの見た目そのもの。昔はたったひとりで、すべてのサンタクロースの仕事をこなしていた、すごい人だったらしい。現役のサンタたちのなかでも、ヒイラギさまのことを尊敬しているものがほとんどだ。
「ポインセチア。ヒイラギさまには、近づかないほうがいい。あの人を信用しないで」
ヤドリギ先生は、ずいぶん前からヒイラギさまにきびしいけれど、やっとその理由がわかった。クリスタル・ビジューを横取りしているからだったんだ。
ポインセチアはベッドから、からだを起こした。
「何か理由があるのなら、ぼくはそれを知りたい」
それから、ポインセチアはヒイラギさまの屋敷をおとずれた。りっぱな建物に、広大な庭。そこらじゅうに、ヒイラギの葉が植わっている。庭ではトナカイたちが、せっせとヒイラギの世話をしていた。
この世にクリスマスが生まれてから、ずいぶんとたち、トナカイたちのなかには、人間そっくりに進化したものもいる。それぞれ思い思いのファッションに身を包み、ぞんぶんに働いていた。
「やあ、サンタ・ポインセチア」
金色のおかっぱ頭から、りっぱなツノを生やした、トナカイ・ベルズが、ポインセチアに手をふった。グリーンの作業服に身をつつんでいる。ヒイラギの手入れをしていたのか、ベルトポーチにはハサミやピンセットなど、さまざまな道具が入れられている。
「久しぶりじゃないか。今日はどうしたんだい」
「クリスタル・ビジューのことを聞きに来たんだ」
するとベルズはお手上げのポーズをし、「はは」と鼻で笑った。
「なにがおかしいんだよ」
「帰ったほうがいい」
「どうして」
「きみはヒイラギさまではなく、自分の好きな人のことをよく見ていたほうがいい。おれたちが、ヒイラギさまのことを見ているようにね」
するとベルズは、さっさとヒイラギの手入れの続きをはじめた。
「ぼくが、ヤドリギ先生のひっつき虫だっていいたいのか?」
なんて失礼なトナカイなんだ。こんなところ、数秒だっていたくない。ポインセチアは逃げるように、屋敷をあとにした。
自分の屋敷に戻ると、気をしずめようと、ポインセチアは地下の図書室にむかった。壁一面をかこむ本棚の海のなかから、一冊の本を手に取る。
『サンタクロースの歴史』
ポインセチアはソファに寝ころび、ページをめくる。せまい図書室に、紙ずれの音だけが、鳴り響く。三時間かけてそれを読み終えると、寝ころんだまま、読み終えた本のことを考えはじめた。
本にはクリスタル・ビジューのことが、くわしく書かれていた。天の川でその年の子どもたちの数だけ生まれる、美しい石。プレゼントボックスに入れると、クリスマス・イブの夜にその子が欲しいプレゼントにすがたを変える。ビジューがないと、サンタは自分でその子のほしいものを考えたり、調べたりしないといけない。それはとても大変な作業だ。
もしかしたら、欲しくないものをプレゼントしてしまうかもしれない。そんなことは、サンタにとって、あってはならないこと。
「やっぱりクリスタル・ビジューは必要だ。なんとしても、探しださないと」
コン、ココン。図書室のドアがノックされた。こんな変なリズムでノックするのは、この屋敷に一人しかいない。
「ポー。手紙だぞ」
さわがしい、アルトボイス。ポインセチアは、頭をぽりぽりとかきながら、ドアを開けた。
「ファーツリー。変なノックは止めて。気がおかしくなる」
「目が覚めるだろ。年中寝ぼけた顔のポーにぴったり」
栗色の天然パーマから生えた、若々しいツノに、いたずらっぽい水色の瞳。グリーンの作業服を着た、小さな獣人がポインセチアを見上げている。トナカイ・ファーツリーは、ポインセチアにつかえる、小さなトナカイだ。
「はあ。いったい誰から?」
「ヒイラギさま」
ポインセチアはひどく驚いて、目をぱちくりさせた。さっきまでおとずれていた屋敷の主からの突然の手紙。ポインセチアは、それを信じられないような気持ちで受け取った。
夜空色の封筒は、星屑のグリッターやラメで飾られ、金色の月からたれた蜜で封がされている。ポインセチアは緊張しながら、ていねいに封を切った。かさり、便箋を開く。そこには、流れ星のような文字が書かれていた。
——愛する家族 サンタ・ポインセチアへ
夜空の星たちがいっそう、輝きを増す季節になりました。
さて。もうすぐ、クリスマス・イブですね。
あなたに、お聞かせしたいことがあります。
わが屋敷へ、お越し願えませんか?
澄んだ空気と、シクラメンの香りを用意して、お待ちしております。
サンタ・ヒイラギより——
ポインセチアはドキドキしながらそれを読み終わると、一折り一折りに気持ちをこめて、折りたたむ。小鳥の雛にするようなまごころでもって封筒にもどし、デスクの引き出しにしまった。
「はーっ」
止めていた息を思いっきり吐いたあと、とたんに頭のなかがパニックになる。大あわてで一階への階段をかけあがると、クロゼット部屋に飛びこんだ。
「ヒイラギさまが、ぼくに手紙! ぼくがしでかした、何かが原因だ。さっきのこと、怒られるのかな。怒られるときって、どんなかっこうで行けばいいの?」
ドタバタとクロゼットをひっくり返してから、三十分後。
けっきょく、ポインセチアはいつものパーカーにスキニーパンツというコーディネイトで、ヒイラギさまの屋敷の前に立っていた。
門の前で、ヤドリギ先生とはちあわせた。手紙は、先生のもとにも届いていたらしい。
「ポインセチア。きみも呼ばれていたんだね」
「は、はい」
「なかに入って、ゆっくり話そうじゃないか。三人目でね」
バタン。大きな大きな門が、閉められた。まるでお城のようなヒイラギさまの屋敷を見上げつつ、庭を歩いていく。トゲトゲしたヒイラギたちが、ざわざわりと、ポインセチアとヤドリギ先生を出迎えた。
「やあ、ポインセチア」
ベルズがヒイラギの葉をそこらじゅうにつけたまま、にこにこと駆けよってくる。
「ベルズ。ぼくたちは遊びに来たんじゃない。ヒイラギさまに呼ばれて来たんだよ」
「知っているとも。ヒイラギさまの部屋には、おれが連れて行くことになっているのさ。さあ、こっちだ」
ベルズはヒイラギの葉をくっつけたまま、屋敷のなかへと案内してくれる。ポインセチアとヤドリギ先生は、ベルズがたまに落とすヒイラギの葉を目じるしに、彼を追いかけた。
窓の外には、夜空が広がっている。明日は、クリスマス・イブだ。クリスマスプレゼントはできている。でも、ヤドリギ先生が思う、かんぺきなプレゼントではない。
今年のプレゼントには、クリスタル・ビジューの魔法はかかっていないのだ。
ヒイラギさまの部屋に通される。ティーツリーはぺこりとお辞儀をして、すぐに部屋を出ていった。
ヒイラギさまの部屋は、まるで冬景色のようだった。雪のような白い壁紙、キャビネットに飾られたクリスマスカラーのお花たち。黄金色のランプシェードがいくつも天井からぶらさがり、あたりを照らしている。大きな窓からは、すきとおった夜空が見えた。
ヒイラギさまはソファで、ゆったりと紅茶を飲んでいた。テーブルにはふしぎなお菓子がならんでいる。
「新鮮な四季をそのまま摘んだものだよ。どうぞ、すわって」
サンタクロースのあいだではやっているスイーツ「生四季」。文字通り、生の四季を味わうナチュラルなスイーツ。
冬の霧は、じんわりとした苦みが口のなかに広がる。春風は、緑青色に染めあげられた、さわやかな甘さ。夏は、ぱちぱちはじける日差しに、ふわふわの入道雲がふりかけられている。秋空の夕焼けは、少し渋みがあって、大人向け。
ポインセチアがじゅるり、とよだれをすすった。そのあと、あわてて首を振る。今日は遊びに来たわけじゃないのだ。
「好みじゃなかったかな」
ソファに座ろうともしない二人に、さみしそうに笑うヒイラギさま。その絹のような髪は、冷えた床を引きずってしまうほどに長い。笑うと月の満ち欠けのような、おだやかな雰囲気をかもしだす。
「今日はね、いいたいことがあって、きみたちを呼んだんだ」
その口調、仕草一つ一つがおおらかで、優しい。本当にこの人が、クリスタル・ビジューをひとりじめしている、ヒイラギさまなの?
ドキドキして落ち着かないポインセチアの手を、ヤドリギ先生が優しくにぎる。それだけで、心にぽっと火が灯った。あたたかくて、嬉しい。ヤドリギ先生の見守るようなまなざしに、ポインセチアはうっとりした。
大丈夫だ。ヤドリギ先生がいれば、なにも怖いものなんてない。
「ポインセチア。ヤドリギ。聞いてくれるかい?」
「は、はい」
ポインセチアの返事にあわせるように、ヤドリギ先生もうなずいた。
「ぼくがクリスタル・ビジューをひとりじめしていることを、怒っているんだってね。理由はとても、シンプルだ」
カチャン。ヒイラギさまが、ティーカップをソーサーから取り、一口飲んだ。
「ヒイラギという、ぼくの物語は本来なら、とっくに終わっているんだよ」
「え?」
ぽかんとするポインセチア。今聞いた言葉のすべての意味がわからなくて、ヤドリギ先生を見上げた。
ヤドリギ先生の表情は変わらない。でも、つないでいる先生の手がだんだんと、汗ばんできているのがわかった。
ティーカップをソーサーに起き、ヒイラギさまは、かなしそうに目を細めた。
「寿命、というのかな。このからだの終幕を、何年も前から感じていた。そして、去年の十二月。いよいよぼくの物語が終わろうかというとき、トナカイたちがいったんだ」
あなたがいなくなったら、クリスマスはどうなるんですか。ぼくたちは、あなたがいたから雪のなかでもプレゼントを配ることができた。きびしい冬、どんなに寒くても、あたたかさを感じることができたのは、あなたの優しさがあったからだ。
ぼくたちはぜったいに、あなたを消えさせたりなんかしません。
「今、ぼくがサンタ・ヒイラギの物語を続けていられるのは、トナカイたちが天の川から集めてきたクリスタル・ビジューのちからのおかげなんだ」
「それじゃあ天の川でどれだけ探してもビジューがなかったのは、トナカイたちのせいだったということ……?」
「いや、ぼくのせいさ。ポインセチア。ぼくは、自分のトナカイたちがかなしむ顔をこれ以上、見たくなかった。しかし、ぼくの物語を続けるという願いはビジューには重すぎた。寿命をのばすには、一日に大量のビジューを必要とするようなんだ」
くしゃりと顔をゆがませる、ヒイラギさま。ポインセチアは何もいえなかった。トナカイの気持ち、そしてヒイラギさまの考えがわかったとたん、あんなにあった怒りがスウッと消えてしまった。
「ヤドリギも、すまなかった。きみにはこの一年、一番苦労をかけた。クリスタル・ビジューがないなか、よくぞプレゼントを用意してくれ……」
ヒイラギさまが「もぐっ」と、言葉をつまらせた。
ヤドリギ先生が生四季の入道雲をヒイラギさまの口のなかに、ぎゅっと押しこんだのだ。夏のもくもくとした雲は弾力があり、なかなか咀嚼できない。
「うるさいです」
「もぐもぐ……ヤドリギは、本当にぼくにたいしてきびしいね」
「ええ」
「だから、ポインセチアまで、ぼくにきびしい目をむけるんだよ」
入道雲を食べおえ、ティーカップのなかみを一気に飲みほした。トポポポ。ヒイラギさまが、カップにお茶が注いでいく。すると、花が咲いたような豊かな香りとあたたかな湯気が、あたりに広がった。
「春の香りを集めて作った紅茶だよ」
「このカップは?」
ポインセチアがたずねた。美しい造形になめらかな質感。表面には、ポインセチアが描かれている。鮮やかなのに、落ち着いた大人の雰囲気の色あいで、何もかもがきれいなティーカップ。こんな魅力的なカップは、見たことがなかった。
「ホーリーナイトポインセチアというティーセットだ。美しいだろう。ぼくがサンタクロースを引退し、長老の座についたとき、屋敷のトナカイたちがくれたんだ」
「へえ」
「気に入ったかい。これはあげられないけれど、気に入ったのなら同じブランドのティーセットをプレゼントしよう。だからね、ポインセチア……」
すると、ヤドリギ先生がヒイラギさまとポインセチアのあいだにわって入った。
「止めてください。だから、あなたは信用ならないんだ。油断もすきもない」
キッと、ヒイラギさまをにらみつける、ヤドリギ先生。
「あなたはポインセチアをねらっている。自分のあとつぎに……次の、サンタ・ヒイラギにしようとしている。だから、近づけさせたくなかった」
ポインセチアは、頭に冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。自分が次のサンタ・ヒイラギに? そんなことが、ありえるの?
ヒイラギさまは、聞きわけのない子にいい聞かせるように返す。
「ポインセチアはすばらしいサンタだ。クリスマスや子どもたちへの愛、トナカイへの友情、そして同僚への信頼。ぼくのあとつぎにふさわしい」
「ポインセチアはまだ子どもです」
「子どもだが、サンタクロースだ。サンタに子どもも大人もない。それはきみだって理解していることだろう」
「それ以前に、サンタは子どもを守るものです。だから、次のクリスタル・ビジューもいりません。来年からも、クリスタル・ビジューはサンタ・ヒイラギに使うようにと、トナカイたちにそう伝えてください」
ヒイラギさまは、あきらめたような顔で、息をつく。そして、ヤドリギ先生にだけ聞こえるように、小さくささやいた。
「まったく、きみは強情だ。やはり、きみにサンタ・ヒイラギは任せられないな。トナカイたちにクリスタル・ビジューを使えといってきたのはきみだってこと、ポインセチアは知っているのかい」
「あなたこそ、まったく強情だ。ぼくたちはこれで、失礼します」
ヤドリギ先生はずっとつないだままだったポインセチアの手を引いて、ヒイラギさまの屋敷の門をくぐった。
朝焼けに満ちた金色の空。クリスマス・イブの輝かしい朝がはじまった。
「先生。どこまで行くんですか」
天の川のほとりまで来て、ようやくヤドリギ先生は、ハッと我にかえった。
「すまない。手、痛かったかい」
ポインセチアの手を優しくさするヤドリギ先生だったが、その顔はひどく落ちこんでいる。
「ヤドリギ先生。クリスタル・ビジューがないと来年も大変なんじゃないですか」
「そんなことはいい。それよりも今は、ソリとトナカイたち。そして、プレゼントの用意をしなくちゃあいけないだろう」
あわただしく自分の屋敷に戻ろうとする、ヤドリギ先生。思わずポインセチアは、先生の手を引っぱった。このままじゃ、うやむやにされてしまいそうだったから。
「ヤドリギ先生。ぼく、まだ先生のそばにいて、いいんですか」
驚いた顔をしているヤドリギ先生の目をまっすぐに見あげる、ポインセチア。
するとヤドリギ先生はプレゼントをもらった子どものように、満面の笑みをしていった。
「もちろんだ。ポインセチアはまだまだ、ぼくの大切な生徒だよ」
ミルク色の天の川の水底には、スパンコールにビジュー、ビーズがちかちかと沈んでいる。そこにまた、きらめきが生まれようとしていた。
サンタクロースへの、奇跡の魔法・クリスタル・ビジュー。
これからは、どんなきらめきが生まれるのだろう。
さあ、今年のクリスマス・イブの準備がはじまる。
サンタクロースにとって、一番忙しくて、楽しい一日が。
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