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葛郎と千路子
「どうしたらいいと思う?」
「輪っか状のロープに首を突っ込んで、そのまま首だけでぶら下がったら?」
「そしたら僕は死んでしまうよ」
「ええ、それで全てが丸く収まるわ」
「嫌だよ!!待ってくれ、僕にはとっておきの切り札があるんだ」
「・・・一応聞いてみるわ」
「これを見てくれ」
「何・・・これ?何かの小説?誰の作品?」
「ふっふっふ、僕が書いたのさ・・・ああ!何て事するんだよ!!」
「明日燃えないゴミの日だから」
「ノートパソコンはリサイクル回収だよ!って、違う違う!ゴミじゃない!!」
「じゃあ何なの?この下らない小説がどうやって来月の家賃と電気代になるのよ?」
「ふっ、千路子よ。まだ分からないかい?鈍いなあ」
「ええ鈍いのは認めるわ、遠田葛郎という人間が40にもなってパチンコで借金を増やし続けるクソ男だと、結婚するまで気づかなかった私は確かに鈍い女だわ」
「そ・・・そこまで言わなくてもいいじゃないか」
「で?」
「え?あ、ああ!そうそう、だからあ、この僕の超ーーーーーー面白い小説がエブリデイ社の小説コンテストに入賞するのさ」
「へー」
「賞金10万円!」
「へー」
「だから千路子、何も悩まなくてもいい・・・ぐはっ!!」
「糞が」
「ひ、久しぶりの千路子のホディブロー・・・効いたぜ・・・ってどこに行くの?君は身寄りなんていないじゃないか」
「ぐっ、私に人並みの健康さえあればこんな男に頼らず生きていくのに」
「そういう事。千路子は俺無しでは生きていけないんだから~、俺の小説に期待するしか無いのよ~」
「アンタさ、小説コンテストのハードルの高さ分かってる?」
「何言ってんの千路子、今の娯楽と言えば動画やゲーム、漫画だよ。小説なんか書いてる人いないいない。楽勝楽勝~」
「何言っているのよ!アンタが応募しようとしているエブリデイ社小説賞は毎年3万人以上も応募があるのよ」
「そうなの⁉」
「そうよ、しかもほぼ同時期にアナザー社も小説大賞があるから、この時期の小説投稿者は皆モチベーション高いんだから!!」
「千路子、詳しいね」
「え⁉・・・いや、これくらい常識だって!と、とにかくどんな小説なの?読ませてよ」
「いいだろう、感動で泣くんじゃないぜ!」
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