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風花に対して「さっさと帰れ馬鹿」と思っていた為、霜野から一時でも離れた事に関しては肩を撫で下ろす。
そうして少し緊張が解れた耀が、体勢を変えノートパソコンから視線を外そうとしたその時。
強い違和感を覚えて、目の動きが固まった。
「……なんだ? 何をやってる?」
今ノートパソコンの画面に映っているのは、防犯カメラが捉えるカウンター付近の全体図。
新しいグラスを取ろうと背を向けているバーテンダーと、カウンター席に座る霜野。
そして風花が座っていた空席に、カウンターへ溢したお酒をようやく拭き終えた愛垣。
すると突然、本日初めて会ったはずの霜野と愛垣が視線を合わせて、怪しく笑みを浮かべたのだ。
「っ……」
音声はない、しかし何人もの悪人を見てきた勘が働いて激しく警告音を鳴らす。
画面を凝視する耀は今までにないほどの緊張感を漂わせており、外の肌寒さも車のクラクション音も気にならないほど。
すると先に動いたのは愛垣で、風花の飲み掛けのカクテルグラスをそっと霜野の方に寄せた。
と同時に、スーツの内ポケットに手を忍ばせていた霜野が取り出したのは、小指爪サイズの錠剤。
本日着ていた風花のパーティードレスと同じ、ブルーグレー色のラムネのようなそれは、間違いなく違法薬物だった。
「!? あいつら……!」
ノートパソコン画面に向かって耀が怒りを露わにしても、もちろん二人に届くはずはなく。
錠剤を優しく摘んでいた霜野は、その指先を徐々にグラスへと接近させて、風花の飲み掛けのカクテルの中にポチャンと投下させた。
それを見届けた愛垣が薬物入りのグラスを持ち上げて軽く回すと、錠剤は早々に溶けていきやがて何事もなかったような姿でカウンターに置かれる。
再び顔を見合わせた霜野と愛垣は、何も知らない風花を騙す事に成功した喜びと興奮で、あくどい笑みを浮かべていた。
「……やられた」
風花は半信半疑だったが、霜野がプッシャーだという情報は紛れもない事実と確信していた。
ただ、あの婚活パーティーにまさか愛垣という仲間も紛れていたとは、考えてもみなかった耀は血相を変える。
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