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その6
『と、いうわけなんだよ。君の無能王のおじさんによく似ていると思わないか? 社会の厳しさに甘えている。地獄の新人研修は俺のアップより楽なんだけど』
「社会の厳しさに甘える、か…資本論書くことになったら参考にするよ」
というものの、俺は苦笑いしかできなかった。先程も書いたが、時代が変わってきていて、一般常識が通用しなくなってきているという自分の認識、見識と、「いやいや、社会はこうあるべきだ」という固定概念がぶつかり合って矛盾し、それが自信がなくなった時にふっと出てきてしまう自分の弱さがここで顔を出していた。「社会こうあるべし」という思考の自分がM君に対し、呆れた表情、口調を自然と生み出してしまっていた。
M君は更に饒舌に語る。
『甘えていたせいで意志が弱すぎる。いやさぁ、消化器官が弱いからこの人は仕方がないのかもしれないけれど、新人研修の話を聞くと、同僚の美容師もなんか甘えまくってる感がする』
「ま、まぁ、十四キロはともかく、腕立て三回は酷いね。鬱の俺ですら、もう少しマシな筋トレができるよ」
『仕事って能力の限界付近の行動をするわけではないから、こういう意志が弱い奴でもできるんだな、って思ったよ』
「無能王ってマジでヤバいんだな」
『他にも例はある。毎日飲み会している奴とか、仕事に甘えて資格を五十回も落ちてる奴とか。こういう連中は自分を伸ばす代わりに他人の足を引っ張り、マウントすることに意識を向ける。資格取っててよかったよ。こういう連中の底が見えたからね』
「流石に五十回落ちは半端ないな。そこまで落ちてたら普通は諦めるだろうに…」
『仕事に甘えて何も自分を伸ばす事をしなかった結果がこれさ。気が付いた時には甘え癖がついて、最早、気力がなくなっている。絶えず自分をアップデートする意識が必要だって、美容師から学んだよ』
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