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その2
ここで俺のことを少し話すと…今でこそ俺は障害者雇用枠という形で働いてはいるものの、その前まで、双極性障害を発病して病んでしまうまでは、某宅急便でパート、つまりは契約社員として働いていた。そこに行きつくまでの過程は長ったらしくなるので略するが、就活に失敗し、正社員になれないままここまできてしまった俺は、もう一人の叔父…母の弟の葬儀の席で、散々になじられた。無論、なじる内容は、
『どうして社員じゃないんだ?』
というもの。
葬式は一族の最大イベントの一つだ。死者の死を哀しみ、弔うイベントであると同時に、『あいつ、今、何してんの?』という集まってきた身内に根掘り葉掘り近況報告する面倒なイベントである。
『おまえの従兄は、従妹は東京消防庁だの、某餃子屋だの、病院で福祉士しているのに、何故、おまえは契約社員なんだ?』
と。俺から言わせれば
『俺があまりに世渡り下手なくせに努力不足だって点は認めるが、それでも、無茶言うなよ。前代未聞の就職氷河期だって言われてた時に東日本大震災だぜ? 就職できないやつが出てきて当たり前だろ。おまけに、終身雇用も崩壊しているこの時代に何を馬鹿なことを言っているんだ』
だった。
だが、俺も心の底では自分の現状はあまりよろしくないことは重々承知していたし、何とかしたいと思っていたが、(後に判明することだが)発達障害者の自分を正社員で雇ってくれる所なんてなかなか見つからなかった。俺だって契約社員をやりながら就職活動をしていたのに、保守的な考えで、かつ、結果重視で、もっと言えばプライドだけはいっちょ前に高い、うちの一族は、さも、一族の恥さらしだといわんばかりに俺を責め立てた。
『おまえのは鬱病なんかじゃない! 新型鬱っていう、自分の好きなこと以外は不通に戻る怠け者の逃げだ!』
『気分が下がる⁉ 仕事中に鬱になるって言うのは仕事に集中していないってことだ‼』
『なんでそんなに自信がないかわかるか? それは正社員じゃないからだ! 正社員じゃないってことは人間の屑ってことなんだよ! 屑だから自信が持てないんだよ‼』
『早く正社員になれ。正社員にならないと惨めだぞぉ~? 確かに、最初のうちは苦労する。俺だってそうだった。ほぼブラック社員よ。けどな、正社員にさえなれば毎年必ず出世して、給料も上がるから、後々楽になれるんだ。おまえだって楽になりたいだろ?』
『いつまで契約社員なんていう“甘え”に逃げてるんだ⁉』
『「俺はこの仕事だったら負けない」っていう成果出せ。そうすりゃ、正社員になれるから…』
『…』
正社員じゃないという理由で人格否定され、甘えだと罵られ、大いに傷ついた。既に書いたが、自分は保守的な考えが根底にあったし、『正社員じゃない』=『人として終わってる』という社会的思考が頭にこびりついていたのだから。
だが、就活中に双極性障害を発病し、国に生活保護を申請、保護を受けながら病院に通院しつつ、就労支援センターにて職業訓練を受けながら、障害者雇用という形で就職活動にいそしんだ結果、今、こうして今の職に就き、生活が安定し、生活保護からも卒業することができている。自分はやっと、自分らしい、無理なく、自分を理解してくれる職業に就けたのだ。
この過程を知る小学生の頃からの親友と、M君は、
『働こうとしているだけで偉い』
と、認めてくれた。
こと、M君に至っては、
『この終身雇用が無くなった時代に、何、寝ぼけたことほざいてるんだ? 黙ってたって出世できるんだろ? なら、無能でも出世できるってことなんだから、当然、何のスキルもねぇよな? だったら、そのポストから降格されたり、首になったりしたら、そいつどうするんだろな。仕事に甘えすぎなんだよ』
と、呆れていた。
『よしけん君は小説っていうスキルがあるんだから、そんじょそこらの無能よりまだ見どころがある』
とまで太鼓判を押してくれた。ありがたいことである。
話は長くなったが、会話の続きである。
「まぁなぁ…何かにつけて社員社員ってうるさかったからね」
『マウント取りたいだけなんだろよ』
「なんてかさ、色んな所で働いて、色んな奴と接してきてわかったんだが、マウントしてくる奴の傾向としては低学歴が多いと思う」
『それは間違いない。高学歴は労働をアピールしない』
「なんでだろうね?」
『頭がいいから仕事という単純な行動に価値を見出さないから』
「あははは…」
『そういやさ、俺も実は似たようなことがあってさ、マジでヤバいと思ったよ。無能王は。仕事に甘えて何にもできないんだもの』
「へぇ、どんな感じなの?」
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