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その5
再び美容師に話が戻る。
次は筋肉トレーニングの話になった。
「最近プロテイン飲みまくってるけど、不味いからココア入れてる」
すると美容師は言う。
「私もプロテインは旦那からもらって飲んでるな。食事がまともにできないからプロテインとお菓子一つまみ位しかできないの」
「食事できないんですか?」
「そうなの。 消化器官が弱いから食べるとほとんど動けなくなるの」
「でも、そこまで痩せていないからいいんじゃないですか~。身長あまりないから四十三キロくらい?」
「そんくらいだね。夜なら食べられるから」
「軽いな、最近、筋肉つけ過ぎて七十三キロあるわ。三十キロの重り背負って生活したら俺の気持ちがわかるよ」
「そんなのわからなくていいよ」
ここで話題が変わった。
「美容師って最初が大変だって言いますよね」
M君の言葉に美容師が苦笑いする。
「大変だよ。新人研修合宿で十四キロ走らされた。何時間もかけて半分は歩いてゴールしたよ。本当に地獄だった」
M君は呆れた。
(おいおい、体重が四十三キロしかないのにそれかよ。俺なんて百キロのバーベルでフルボトムスクワット何回もした後でも一時間ちょいは走れるわ。それも七十三キロもあるのに)
そんなことをおくびにも出さず、口を開く。
「それは大変でしたね。若い頃とはいえど、十四キロはキツイでしょう」
「そうだよ~。これ耐えられれば何でも耐えられるって、先輩に言われた」
その言葉に、M君は内心、あざ笑う。
(確かに仕事は楽だよね)
そうとは知らず、美容師は言う。
「最近もトレーニングしなきゃって思っているけど、気力がなくってね」
「腕立てなんて良いですよ。上半身全体を鍛えられるから。普通女性はできないから膝つきで良いけど」
「一応は膝つきじゃなくて普通の姿勢でできるけど、気力が無いのよ。一日三回でも無理」
やはり仕事に甘えると駄目だとM君は確信したので、次のように発言した。
「俺は四十ちょっと過ぎた辺りで引きこもる決意をしている。その為にも投資を進めている。」
「マジで仕事しないのはヤバいよ」
「仕事なんかに甘えていたら駄目だ。知性がない人間になっちまう。四十過ぎたら一切やらない」
「…ま、まぁ、生き方は人それぞれだからいいと思うけど」
かなり気まずい空気になったが、M君としては特に気にはしなかったそうだ。
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