Bigin~春のいたずら~

1/6
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「僕たち、ここから始めない?」  満開の桜の下で、僕は一生に一度の告白をした。  今まで人が泣いているのを美しいと思ったことなんて一度もなかった。  高校最後の音楽フェスティバル。  僕は、毎年行われているこの会場に必ず来ていた。代表として選ばれた僕と同じ高校生の男女が自分の奏でる音を評価される場所。そこには、言葉では表現できない感情が入り乱れている。  緊迫した中でも、胸にスーッと入り込んでくる演奏をする人。自分の力を発揮できないまま演奏を終えてしまう人。  人それぞれだけど、僕はそんな彼らの奏でる音を聴くのがすごく好きなんだ。  自分には奏でることのできない音色――。  幼い頃はただピアノを楽しいと思って鍵盤を弾いていたのに、それがいつしかコンクールに出るための聴かせる演奏へと変わっていき、僕はそのプレッシャーに負けた。それでもピアノを嫌いにはなれなかった。だからこうして誰かの奏でる音に耳を傾けることを選んだんだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!