だるま落とし

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 はじめから他の男たちとは違う斎淳のことが気になっていた。春光に金を預けに行く目的は、本当は斎淳に一目会うためだった。ちかと斎淳が言葉を交わすことはそうない。なんだかやけに意識してしまい、挨拶くらいで精一杯なのだ。目を合わすことすら気恥ずかしい。その真心の反面、普段の男たちと関わっている自分を試してみたい気もしていた。  ある日のことだった。ちかはいつものように賃金を預けに寺へ向かっていた。  梅雨時期らしく朝から黒い雲が低く垂れ込めていたが、昼を過ぎても雨が降る気配はまだ遠かった。  日が暮れかけ、辺りは薄暗く、雷鳴が轟き、風が冷たくなった。まだ間に合うだろうと駆けていったのだが、寺が目前に見えた時、あっという間に土砂降りになった。 「春光」  本堂の軒下で何度か呼び続けて、ようやく出てきたのは、斎淳だった。薄暗いなかに仄かな光を放つような青白い顔をしていた。 「春光なら今日はいないよ」 「えっ」 「下落合の方の寺へ使いにやってしまってね。帰るのは明日だ」 「そんな……」 「こんな日にまで遊びに来るなんて、ずいぶん仲がいいんだね」
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