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振り向いた斎淳のうつむき加減の眼差しが心なしか鋭く見えて、ちかはぞくりとした。
「……春光と私はそういうのではないよ」
「あたしと春光だってやましいことはありませんよ。ただ春光にあたしの大事なものを預かってもらってるだけ」
「大事なもの?」
蝋燭に伸びた影のせいだろうか、茶を目の前に差し出してくれた斎淳がやけに大きく感じて、ちかは思わず息を呑んだ。
「あたしが稼いだ金を親父の酒代にされないよう春光に預けてるんですよ」
「春光に? いつから?」
「もう二年近くになります」
「そんなにかい?」
斎淳は眉をひそめてなにか考え込むように腕を組んだ。
「斎淳さん?」
「そんなに長い間預かっているなら私に隠していられまいに、そんな痕跡はどこにもない」
「え……」
「ご覧の通りここが私達の住まいだ。本堂の方もそう広くない。もしかしたら春光だけの隠し場所があるのやも知れぬが……、そんなに長い間預かっているなら、隠し場所に困るのではないと思ってね。私の思い違いならいいのだが。春光が帰ったら聞いてみよう」
「そうしてください。斎淳さんに最初から疑われちゃ春光が可哀想」
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