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「おちかさんの言うとおりだ。私としたことが、春光にひどいことをしてしまった」
斎淳に言われ、ちかも内心穏やかではいられなかった。しかし、春光を疑うのも正しくない気がした。沈黙が良くない。黙っているから悪い想像をしてしまう。そんなことを思い、ちかはなにか話そうと斎淳を盗み見た。
蝋燭の灯りに照らされた額や鼻梁の陰影が造形の良さを引き立てる。澄んだ空気を纏うその佇まいは、白い蓮の花を思わせる。
ちかの周りにいる泥臭い男たちとは大違いだ。
この男が、劣情に心を乱されることがあるのだろうか。弥勒菩薩のような伏せた眼が、獰猛に輝き、女を見下ろすことがあるのだろうか。そんなことを思いながら、ちかは斎淳を眺める。
春光に向ける慈愛に満ちた眼差しを羨ましく思うこともある。しかし、奥に潜むちかの女の性がそれじゃつまらないと唾を吐いた。
「斎淳さん」
思ったより自分の声が響いた。
「……なにか」
斎淳は微笑を浮かべて応える。
「襦袢まで濡れてしまって、すごく寒いんです。乾かしたいのだけれど、いいかしら?」
「え……」
簡素な小袖の帯を解き、襟を開く。
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