だるま落とし

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「なにか掛けるもの貸してくださる?」 「あ、ああ」  斎淳は慌てた様子で立ち上がり、衣紋掛けを用意する。ちかはその広い背中に近づき、囁きかけた。 「斎淳さん、襦袢の紐が濡れて固くなって解けないんです。解いてくださいな」  斎淳が振り向いた。 「……私をからかっているのか?」  斎淳の眼は怒りに燃えている。ちかは急に心細くなった。目頭が痛む。 「……まさか。死ぬまでに一度くらい、自分が惚れた#男__ひと__#に抱かれてみたいと思っただけ」  冷えた頬に流れた涙が熱い。 「そんな悲しいことをいうもんじゃない」  斎淳も泣きそうな声だった。 「あたし、女に生まれてきて、いいことなんかひとっつもなかった。女は死んでも、男に生まれ直さなきゃ、成仏もできないんでしょ!? なんでこんな嫌な思いして生きていかなきゃなんないの!?」
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