だるま落とし

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「男に生まれても、そういいことばかりじゃないよ。武家の長男は家を継げるが、次男三男なんか、よほど運が良くなきゃ日の目を見ることもない。運良く召し出されて新たに家名を立てられれば最高だが、ほとんどが実家の部屋住みか、婿養子か、最悪、脱藩するか、私のように出家するかだ。希望なんて限られた者にしか与えられない。幸い、私は出家して百姓や町人に必要とされるようになった。居場所を見つけられた」  斎淳の手が、ちかの腰紐にかかる。 「……斎淳、さん?」 「このまま徳を積んで悟りを開いて自分だけ極楽にいけたとして、惚れた女が成仏できないなら地獄と同じ。ならばいっそのこと、この世で二人極楽を見ようじゃないか」  固く閉じた紐が手荒く解かれ、濡れた襦袢が落ちる。ちかは斎淳の首に腕を回し、互いの口を吸った。冷たい柔肌が熱い男の肌で蕩けていく。頭の中が白くなるほどの悦びに浮かされながら、ちかは涙をとめられなかった。
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