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「銀二、くれ葉を抱いとくれ」
両開きにした絢爛な襖の先に居たくれ葉は、桜も恥じらう天女のごとく美しさを醸していた。
「ご隠居、」
銀二が織日を気遣う声色で言いかけたが、織日はふらりとくれ葉のもとに歩いた。
「交代」
くれ葉がそれだけいうと、織日は頷いてご隠居の所へ行った。
ご隠居といる方がずっと良い。この手練は本気になったりしない。なにより魔羅も物静かで陰嚢は桜を餅にしたような愛らしさだ。銀二の赤黒い太くて長い鬼の金棒みたいな魔羅はどうも合わない。
それでも織日はご隠居の酌をしながら、二人のまぐわいを見ない振りをした。見たくない振り、悲しい振り、辛い振り。
悲しみなどとうに忘れたが、おぼろげに記憶はある。織日がまだ六つの頃、村に飢饉が訪れる前の年、四つになった妹が足を滑らせて川に流された。悲しくて悲しくてずっと泣いていた。父も母もまだそんな織日を慰めてくれる余裕があった。それからは貧しさと飢えで、悲しみもなにもかも擦り切れてわからなくなるほど生活に追われた。生きることに殺される日々だった。
そんな話をしたせいで、銀二はすっかりその気になっている。
(憐れみやがって。)
織日はどうしようもない歯がゆさを覚えながら、奥歯をかみ締めた。
「銀さん……」
くれ葉の切なげな声に、織日はハッとそちらをみた。
普段、くれ葉は人形のように綺麗にお行儀よくいる。座敷でも床でも乱れすぎることはない。
銀二の胡座の上に脚を広げて膝立ちになり、男の頬を細く白い指で撫でる。うっとりと熱っぽい眼差しで、そっと口を吸う。
「くれ葉」
銀二が応えると、くれ葉の頬が赤らみ、眼が潤んだ。織日の胸がヒヤリとした。銀二がくれ葉の胸の尖った先端を口に含む。
「ああ……っ、ああッ……」
震える指が男の肩を掴む。必死に着物を握りしめ、がくがくと太腿が揺れている。
「銀さん……、切ないよぅ……」
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