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「なあんにも。なあんにもわかりゃしないさ」
「だろうよ。アンタ、銀二に文出してんだって? ご隠居に知られたら銀二は出禁になっちまうんじゃねえの?」
「そしたら、わっちが銀さんの揚代払って呼ぶよ」
「ケッ。間夫狂いとは大した花魁姐さんだ」
カンッ、と煙管の雁首を灰皿で叩いた。
「ああ。そんな捨て方しちゃ煙管が駄目になっちまう」
「知ったことかよ」
織日は言い捨てて、くれ葉の部屋を後にした。
なんだか階下が騒がしい。行ってみると、新しい艶本が出たらしい。女郎がこぞってきゃあきゃあ騒いでいる。
「織日! 見なよ、これ、あんたたちと銀さんだろ」
と、目の前に広げられたのは、二人の女郎と一人の男。織日らしき女が銀二に跨り、もう1人のくれ葉らしき女は銀二の手で女陰をまさぐられながらよがっている。
「そしてこれ!」
赤い紐に縛り上げられ、背後から男に責められ、顔を苦悶に歪める銀二の姿。眉尻と目尻の黒子は間違いなく銀二だ。
珍しく写実的な絵のせいで、織日の頭の中に生々しい銀二の姿が浮かんだ。
女のように男に責められ、唇を噛む。白い肌にくい込んだ赤い紐がぎりぎりと軋む。だんだん銀二に抱かれたくれ葉のように、やがて銀二もよがり狂う。その様をありありと思い浮かべながら、織日は笑った。
(ざまぁみやがれ)
くれ葉にも見せてやろう。織日は物売りから一冊買い、再びくれ葉の部屋へ踵を返した。
「ほらよ。くれ葉。あんたの想い人は時の人サ」
と、艶本を投げてよこすと、くれ葉はのそりと身体を起こして、それを捲った。
「アラ! 銀さんじゃないかい!」
素っ頓狂な声を上げてパラパラ捲り、チラ、と織日を見やる。
「……これ、わっちにくれるの?」
もじ、と太腿を擦り合わせる。
「勝手にしやがれ」
織日は呆れて、くれ葉の部屋の襖を乱暴に閉めた。
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