14人が本棚に入れています
本棚に追加
1
チロンッ。
スマートフォンが鳴った。ニュースの新着だ。広島へ向かう新幹線の中、明野冥地は窓の外を眺めていた。時折り、川に架かる橋を通過する度に、満開に咲く桜並木が通り過ぎていく。
この日は、自動車の部品として使うスプリングの新製品を紹介するために、広島の得意先へと向かっていた。
入社五年目ともなると、一人でお客様を訪ねビジネスを取ってこなくてはならない。スプリング、いわゆるバネを扱う会社なわけだが、大学を卒業し最初に就職した会社だった。今のところ転職するつもりはないが、バネを作る仕事に憧れて就職したわけでもない。
「一つ数円、数十円しか価値の無い部品なのに、良く会社が潰れないよな」
ふとした時に、冥地が思うことだった。客先へ出向いても、「弊社が、御社の新開発スプリングを使う嬉しさはなんですか?」とか、「御社が薦めるスプリングの魅力を教えてください」とか訊かれる。
「そんなの、こっちが訊きたいよ」と常々思っている冥地は、ビジネスに繋がる結果を得ることができないでいた。そんな訳だから、営業活動には気が乗らなかった。
「うちのスプリングの魅力って、なんだろうな……」ボソリと呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!