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 窓の外に富士山が現れた。頂上には雪が掛かっている。雄大な姿に思わず「おぉ」と口の中で溢す。この日は天気が良く遠くの景色までくっきり見えた。その甲斐あって、『ザ・富士山』ともいうべき富士山の姿を拝むことができた。  後方で「コーヒーください」という声が聞こえた。車内販売員がワゴンを押しやってきたようだ。冥地にとって、車内販売員からコーヒーを買うことが、新幹線で移動する楽しみの一つだった。地上を走っているのに、まるで航空機内でキャビンアテンダントからサービスを受けているような気分になれるからだ。乗り心地も国内線の飛行機とさほど変わらない。 「リッチな気分になるのは俺だけだろうか」  全席の背凭れに折りたたまれている座席テーブルを開き、一口啜ったコーヒーカップを置いた。新幹線に乗る大抵のサラリーマンは背凭れを倒しているので、座席の先端が手前へとせり出している。 「そういえば、さっきの着信、なんのニュースだろう?」  冥地(みょうじ)はスマートフォンを取り出した。ニュースアプリを開くと、着信した記事が最前面でポップアップされる。今日の消失人数の報道だった。 「やっぱりこれか。今日は全国で56,200人か。世界だと1000万人かよ。多っ!」
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