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 数カ月が経ち、ついに冥地(みょうじ)の周りでも消失現象が増え始めた。同僚が数名、近所の知人や親戚も消失した。 「やばいな。なんだか、やばいな」  さすがの冥地も他人事ではなくなってきた。そんな感情が生まれてすぐに事件は起きた。四人掛けのキッチンテーブルを、母と父と姉と冥地で囲い夕飯を食べていた時のことだ。姉が目の前で消失したのだ。  その光景を初めて見た冥地は、消失現象の恐ろしさに打ちのめされた。何故なら、一度だけ瞬きをし、下げた瞼を止めることなく持ち上げた。たったそれだけの間に、姉の姿が消えてしまったからだ。 「そんな……」  唖然とし、声も出せずにいる父と母の両目が冥地(みょうじ)のほうへ移動した。見開いた眸が冥地を直視した次の瞬間、二人も消えた。刹那という言葉を当てはめるなら、今のこの瞬間だった。 「母さん! 父さん!」  冥地は立ち上がり、脱兎の如く家を飛び出した。 「みんな消えた……次はおれか?」  行く宛てもなく、無心に走った。日の沈んだ西の空には、まだ薄っすらと山吹色の明かりが残っていた。いつもなら、薄紅色と紺色の雑味の無い美しいグラデーションに魅了されるのに、この日は不気味に思えた。  歩道には帰宅するサラリーマンやOL、自転車を漕ぐ学生がいる。道路には勿論、車も走っている。いつもなら気にも留めない光景なのに、この時は違った。消えている。明らかに人が消えている。  冥地の視界の中で、人というものが減っていく。まるでディスクトップ画面に置いたフォルダを、順番にデリートしているみたいだ。 「なんで、どういうルールで消えているんだよ! 俺はいつ消えるんだ!」
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