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 消える前にやり残したことはないのか? 消える前にやっておきたい十の事的なことはないのか? あぁ、こんな時に俺の思考はふざけるのか。死ぬまでにやっておきたい十の事って……。 「せめて五個か?」走りながら考えた。  横断歩道に差し掛かると、ある事に気付いた。赤信号で停車している車に人が乗っていない。停車している間に消えたのだろうか。 「そういえば、これほどの勢いで人が消えているのに、どうして事故が起きていないんだ?」  走行中の車からは人が消えないのか? 一つの仮説を立てた。このまま走り続けていれば消えないのかもしれない。  冥地の仮説は正しかった。停止している者が消失のターゲットになっていた。世界中で、この事実に気付いた者は数名いた。ただ、誰も公に伝えることが出来なかった。消失スピードが増し、日常は非日常となり、もはや社会そのものが消えかかっていた。そして、移動しながら誰かに伝える術が思いつかなかった。  もしも最後の一人になったらって、考えたことがあったな。と、冥地は思い返していた。あの時は、何をしても咎められることのない世界に、自由を期待した。本当にそうなるのだろうか。あの時の期待が、今は不安へと反転していた。  もう誰にも止められない。この世界から人類が消失する。気づけば、冥地(みょうじ)の周囲では完全に人が消えていた。どこまで走っても人がいない。  風に煽られた新聞紙が、夜の街灯に照らされる道路を滑っていく。そのうしろを、空き缶や、空き瓶が追いかけるように転がる。コンビニはオープンしているし、パチンコ屋も派手なネオンが忙しなく動いている。町はいつも通り営業しているのに、人だけがいない。ある意味、ゴーストタウンだった。 「本当に、最後の人間になってしまったのか?」  冥地が思っていた世界とは随分違った。このまま走り続けることは不可能だ。観念して立ち止まろうか。このまま生にしがみ付く意味がどこにあるのか。 「俺は、何のために生きようとしているんだ……」
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