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「本日は──」
(お告げが始まった!)
「東海道新幹線をご利用いただき誠にありがとうございます。まもなく広島駅に到着します。お降りの際は────」
「あれ? 俺いつのまに新幹線に乗ったんだ? 人類消失はどうなったんだ?」
前の席の背凭れが元の位置へと戻された。スーツ姿の男性が立ち上がり、鞄にノートパソコンをしまう姿がシートの隙間から見えた。
冥地はキョロキョロと辺りを見回した。通路を挟んだ隣の母娘が降車支度をしている。
「ねえお母さん。厳島神社で鹿と一緒に写真を撮ろうね」
「いやよ。わたし鹿、苦手なの」
なんて会話をしている。
列車が駅に到着する数分前に、降車する乗客は乗降口のドアから車両の通路にかけて列を作る。到着したらすぐに降りられるよう準備するのだ。
厳島? ここは広島か……。
ホームに建つ駅名を記した看板が窓から見えた。
『広島駅』
ホームを行き交う人を見た冥地は、(まだ消失していない人がこんなにもいるじゃないか)とぼんやり考えていた。消えるどころか、次から次へとホームに人がやってくる。普段と何ら変わらない駅の景色に、ハッと意識が戻った。一気に現実の世界だと認識した。
「あ! やべっ。俺も降りなきゃ」
慌てて荷物を担ぎ、座席を立った。
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