2.見えるのか? 見えないのか?

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「鉛筆って、いろんな種類があるじゃないですか。HとかHBとかBとか……。その違いって分かりますか?」  と、唐突にゆずるは問いかけた。そのあまりの唐突さに妃緒は耳を疑ったようだ。  直久はもちろん、数久でさえその意図がすぐには見えなかった。 「Hの中にも、H、2H、3Hと、8Hくらいまで種類があって、Bにも同じくらいあるんですよ。さらにHとBの間にFというのがあって、同じHとBの間に位置するHBとはまた別物なんです。さすがに8Hと8Bの区別は付くでしょうが、HBとFの違いは分からないでしょう。それでも存在するからには違いがあるってことで、その違いが分かる人がいるってことですよね。そういう人にとっては、HBはHBでしかないわけだし、FはFでしかないわけですよ。代わりに使うことはできないんです。だけど、違いなど分からない人にとって、HBもFも、HもBも、みんな同じなんです。どれを使ってもかまわない」  ゆずるはそこで一息ついて、妃緒の目を真っ直ぐに見つめた。 とたん、彼女の顔が赤くなる。 「――つまり何が言いたいかというと、二人のことを良く知る俺が見分けられるのは当然で、会ったばかりのあなたが彼らを見分けようなど、無理でも仕方がない、と言うことです」  きっぱり言い放ったゆずる。その横で、ため息をつく直久と数久。  もっと柔らかく言えないのかよ、こいつは……。  重い沈黙が辺りに広がった。  やばすぎる!  そう思った時、運良くと言うべきか、オーナーが姿を現せた。 「お待たせして申し訳ない」
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