17人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、昔々、この家で1番初めに生まれた女の子が16歳になると生け贄にされていたという話だった。
だが、科学の栄える現代において、神様の祟りをおそれて、人身御供をしようと考える者はない。
いつしか、生け贄など必要とされなくなっていった。
そうして、忘れられたのだ。
人身御供のあったという事実も、生け贄にされた少女たちの存在も。
ところが、それらは、この家の者たちにとっては、遠い記憶のものにはならなかった。
人身御供をやめてからというもの、この家で生まれた1番初めの女の子たちは、かつて生け贄に出されていた年齢になると、生気が抜けたようになってしまうのだという。
何に対しても反応がなく、自ら動こうとしないのだと言う。それはまるで、人形のように……。
そうなって、だいたい1年が過ぎた頃、眠るように死んでしまう。
直久は紫緒を振り返った。
彼女は、さっき自分が見とれていた時と変わらぬ様子で、どこかをじっと眺めていた。
オーナーは、ペンションに客が来ないからということではなく、娘のことを想って、依頼してきたのだ。
このままでは、死んでしまうかもしれない娘のために。
「実は、私には妹がいました。が、やはり16になったその日から様子がおかしくなり、17の誕生日の数日後、死んでしまいました。その時の妹の症状と、紫緒の症状が同じなんです。医者にも見せたのですが、原因は分からないと言われ、もう、どうすることもできません。このままでは、紫緒は……」
それはゆずると数久にとって、オーナーに言われるまでもないことだった。
最初のコメントを投稿しよう!