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彼女を初めて目にした時から、彼女の回りに何とも言い表しがたい不気味な気配を感じていたからだ。
「――この家の見取り図を見せて頂きたいのですが」
娘の不憫さに涙を潤ませて黙り込んでしまったオーナーに、哀れんでいる暇はないのだと言いたげに、ゆずるは口が開いた。オーナーは無言で頷いた。手に持っていた見取り図を広げ、ゆずるたちに見せる。
「改築したと言っても、ほとんどいじっていません。昔と大して変わりません」
そう言うと、彼は妃緒を呼ぶ。
「案内して差し上げなさい」
「はい。では、どうぞこちらに」
にこっとして引き受けた妃緒を先頭に、ペンションを一回りすることとなった。
【改ページ】
▲▽
大して変わらないってことは、昔からこんなでかい家かよっ、というのが直久の率直な感想だ。
この西洋風の屋敷が建ったのは、驚いたことに、明治初頭だという。
よほどの金持ちだったんだなぁ、と溜め息。
そんな直久のすぐ横で、数久が形のいい眉を少し歪ませる。
「どうしたんだ?」
「うん。ちょっと変だなぁ、っと思って」
「ああ?」
どれどれ、と数久の持つ見取り図を覗き込んだ。
二人の足が止まったのに、先を歩いていたゆずると妃緒も気付き、少し戻り、同じように覗き込んできた。
「ここが今いる位置なんだけど……」
細く長い数久の指が、見取り図の上を滑る。それから、目の前の扉を指した。
「この見取り図には、この扉がないんだ。描かれていないみたい」
確かに、その扉は見取り図にはないものだった。
「ゆずるは何か感じない?」
「嫌な感じがするな」
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