2.見えるのか? 見えないのか?

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 見ると、3階の廊下の壁には、数メートル置きに、何枚もの絵が飾ってあった。それも、全て、同じぐらいの年の少女の絵だ。 「これらの絵は、生け贄になった少女たちの肖像画です。生け贄にされる前、その少女が生きていたという証に、必ず肖像画を描かれることになっていたそうです」  写真のように描かれている彼女たちは、今にも絵から出てきそうだった。何かを語りかけてきそうで、早くその場を立ち去りたくなる。 「あれは?」  直久の不安など気にも止めずに、ゆずるが指差すのは廊下の端。 「あの絵だけ、なぜ離れたところにあるんですか?」  日もあたらないような隅っこにポツンと一枚の絵が飾られている。 四人はその絵のもとに歩み寄った。  白い肌、長い黒髪、黒い瞳、赤い唇。日本人形みたいな少女。 「この少女は最後の生け贄の少女でした。いえ、そうなる予定でした」  妃緒はじっと絵の中の少女を見つめながら話し出した。 「明治時代に入って、人身御供などやめようと言うのが、大半の村人の声になりました。でも、この少女の父親は、人身御供をやめれば村人から金を集める理由がなくなってしまうと、それらの意見に耳を貸そうとせず、断固決行の意を示したのです。そうして、代々の生け贄の少女たちにそうしてきたように、この少女にも肖像画を描き残してやることにしたのです。――招かれた絵描きは、まだ若い青年で、絵を描いている長い時間の間、2人は、そのう、……恋に落ちてしまったそうなんです。ですが、絵が完成すると、少女は生け贄にならなければなりませんでした。それで、この絵が完成した翌晩、2人は逃げ出してしまったのだと聞いています」
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