2.見えるのか? 見えないのか?

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「おおっ。手にぃ〜、手を〜、とってぇ〜。駆け落ちジャン」  格好いいと言わんばかりの直久に、妃緒は苦笑した。 「でも、すぐ見つかってしまって、2人ともその場で射殺されてしまったそうです」 「……」  妃緒はもう一度確認するかのようにその絵を見つめた。少女は白い椿の花が咲く庭で楽しそうに笑っている。その笑顔の先には、この絵を描く青年がいるのだろうか?  ふと、視線を下げると、その絵の下の方に『ツバキ』と書いてあった。 「ツバキって、この娘の名前かな?」  その部分を指しながら数久が妃緒に尋ねると、妃緒はあやふやに頷いた。そして、 「あの、そろそろ夕食の準備が整っていると思うので、食堂の方に行きませんか?」  と、穏やかな口調で促す。さっきから腹ぺこの直久は大賛成したのだが、数久はまたもや眉をひそめる。 「どうした?」  それに気付きゆずるが数久に声をかける。数久は今いる場所とは逆方向の廊下の端を指差した。扉がある。 「あの部屋は見ていないなぁ、と思って」 「そう言えば、見てないな」  長い廊下の端から端を見ているせいか、向こう側の端が何だか気味が悪い気がした。  妃緒の方に振り向くと、彼女は何やらずっと遠くを見るような目つきで、その扉をじっと見つめている。  この廊下が薄暗いせいかもしれないが、顔色が悪いように思えた。
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