3.ゆずる、しっかりしろ! 俺に掴まれ!

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 あれくらいの道のりじゃあ、バスケットボール部エース大伴直久サマは疲れんのさ。  ――っていうか、いつもと違うって感じが気を高ぶらせちゃって、眠れねぇ〜。 「数ぅ」  もう眠ってしまっているかも知れないと、遠慮がちに名前を呼ぶ。すると、数久はその身を少し起こした。  まだ眠ってなかったのだ。ホッと息を付く。 「何? 眠れないの?」 「数こそ」 「うん。ちょっと、ゆずるが気になって……」 「ゆずるが?」  数久は、具合が悪いらしいゆずるのことが気になって、眠れないのだと言う。 「早く寝ないと、明日辛いんじゃねぇの? 本格的に除霊すんだろ?」 「そうなんだけど……」  煮え切らない数久の答えに、直久は苛立つ。昔からそうだった。 数はやたらゆずるのことを気にする。  ゆずるの我が儘を何でも聞いてしまうし、命令なら犬みたいに忠実だ。  弱みでも握られているんだろうか?  んだったら、数を溺愛する兄として放っとけないっしょ!ゆずるに文句言ってやらねば!  直久のそんな決意も知らずに、数久は自分の掛け布団を少しめくり上げた。 「直ちゃん、こっち来ない?」 「え?」 「一緒に寝よ」 「……何? マジ怖いの?」 「もういいよ!」  数久は、ガバッと掛け布団を頭から被り、直久に背を向けて寝てしまう。  直久はあわてて自分のベッドから這い出ると、隣のベッドを覗き込んだ。 「数ぅ、直ちゃん、怖くって眠れなぁい」  情けない声を出すと、予想通り数久は振り向いてくれた。再び、掛け布団がめくり上げられると、今度はおとなしく直久はそこに滑り込んだ。
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