1.またずいぶんと現実、いや、現代離れした話だなぁ

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 まだ踏みつけられていない雪を目にして、その上を思いっきり走り回りたいという衝動に駆られていた。  ――自分だけの足跡を残したり、寝ころがったり、シロップなんかをぶっかけて食えたら、最高だよなぁ。  半ばうっとりと雪景色に魅入る。  すると、今まで読書をしていた人物が、我慢ならんと、遂に口を割った。 「小学生か、お前は。雪見て、無条件に喜ぶな」  同い年のいとこ、ゆずるである。 「一緒にいるこっちの身にもなれ。恥ずかしい」 「んだと、てめぇ」 「なんだよ?」 「やめなよ、二人とも」 「だけど、数だって恥ずかしいだろ?」 「そ、そうなのか」  うるうるした瞳で見つめれば、数久に言葉はない。 「何とか言ってくれ〜、数ぅ〜」  とか、口では言っておきながら、本心を言わせるつもりはまったくなかった。  それを口にしたら、大泣きしてやると睨む。案の定、優しい弟は何も言わなかった。  不意に、数久の目が大きく見開かれた。視界に何かが横切る。バス停だ。 「えっ。今、バス停、通り過ぎた…よ……ねぇ?」  その声に、直久もゆずるも、あわてて窓から身を乗り出した。どんどん小さくなっていくバス停が見える。 「あそこで降りてなきゃ、まずいんでない?」 「……」 「……」  沈黙後、乾いた笑いが発生する。 いち早く、現実に戻って来られたのは、数久だった。 「僕、運転手さんに話してくる」  運転席の方に向かう。 「何、お前、ボケっとしてたんだよ」 「お前がとっくに、ボタン、押したと思ってたんだよ」 「俺が押してるわけがないだろ。それはお前の仕事だ、雑用!」 「んだと?」
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