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「ゆずる、何か見えるか? 何かいるか? ゆずる?」
「わっ、わからない。見えない。何も、見えない」
ゆずるは本当に力を失っているらしい。完全に普通の人となってしまったのだと知る。
守らなければ、俺が!
そう決意した時、ゆずるの躰が直久の腕から、ずるりと抜けた。
何者かがゆずるを引っ張っていこうとするのだ。直久はあわてて引き戻した。
「ゆずる、しっかりしろ!俺に掴まれ!」
ゆずるの腕を自分の首に回させて、抱き寄せる。
「痛っ」
ゆずるが小さく呻いた。
「足を。足首を……」
細い声に、直久はゆずるの足首を見た。すると、その足にいくつもの手が絡み付いていた。
その手は青白く、暗闇にはっきりと浮き上がって見える。そう、見えるのだ。直久にも見えるのだ。
初めて見たものに放心しかけた直久だったが、再びゆずるの身体がその手に引っぱられて、我に返った。
今はまず、ゆずるだ。そう思い、腕に力を込める。腕の中で、ゆずるが躰を震わせている。直久は背後に人の気配を感じた。だが、振り向くことはできなかった。ゆずるを引き寄せるだけで精一杯だ。
ズルッ。
再び、いくつもの手が一斉に力込めてゆずるの足を引っ張った。 直久も引き戻すために、力を入れようとした。さっきの背後の気配がより強くなっているのに気付く。 すぐ後ろにいる。
直久の肩に長い黒髪がかかった。ずしっ、と体が重くなる。息苦しい。くっそう。なんて奴らだ。
さらに強い力がゆずるを引っ張る。直久の手は、もはやしびれて感覚がない。
今にも離してしまいそうだ。 意識も危うく、次第に薄れてく。
「かっ、」
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